魔王領への不法侵入(前半)
「……空が、グレープジュースみたいな色。……あんまり、美味しそうじゃないね」
帝都を離れ、人類未踏の地『暗黒大陸』へと足を踏み入れたエリカ一行。 目の前に広がるのは、禍々しい魔力を放つトゲだらけの森と、その奥にそびえ立つ、空を突き刺すような魔王城だった。
「エリカさん、ここからは冗談抜きで死の世界です。空気を吸うだけで肺が凍り、土を踏めば魂を吸われると言われる場所なんですから!」 リノが防護魔法を何重にも張りながら叫ぶ。
「……大丈夫。……土が硬いなら、柔らかくすればいいだけだよ」
エリカはリヤカーを引き、ドロドロと溶岩のように煮え立つ川の前に立った。 橋はない。あるのは、こちらを獲物として見定める、巨大な『人喰いカボチャ(デス・パンプキン)』の群れだけだ。
「ヒャハハハ! 人間だ! 久しぶりの生肉だぁ!」 カボチャたちが土の中から飛び出し、鋭い牙を剥いてエリカに襲いかかる。
「……勝手に動くカボチャ。……煮物にする時、楽そうだね」
エリカは『大根丸』を構え、深く腰を落とした。 借金から解放され、迷いのなくなった彼女の構えは、もはや自然災害に近い威圧感を放っている。
「……はぁぁぁぁぁっ!!」
――一回目、空振り。 エリカは、カボチャの群れの「ちょうど頭上」を薙いだ。 ドォォォォォォン!!
直接当たってはいない。だが、空振りの凄まじい風圧がカボチャたちを地面に叩きつけ、同時に周囲の猛毒の霧を吹き飛ばして、清浄な空気のトンネルを作り出した。
「二回目、三回目ッ!!」 さらに空振りを重ね、エリカは衝撃波で煮えたぎる川を「物理的に割った」。
「リノ、今のうちに! ……あ、カボチャさんは、後で使うからリヤカーに乗せておいてね」
「エリカさん、あれ『魔王軍の斥候』ですよ!? 食材扱いしないでください!!」
阿鼻叫喚の声を上げるカボチャたちを横目に、エリカは悠々と魔王城の「裏口」へとリヤカーを進める。 その門の先には、魔王すらも恐れて近づかないという、漆黒の土壌に埋まる『深淵大根』が、怪しく黒い光を放っていた。
「……見つけた。……あれが、私を呼んでる大根さんだ」




