美食裁判:舌先の決闘(後半)
「……完成。……『大根の氷華あめ細工』だよ」
エリカが調理台から手を離すと、そこには大根で作られたとは思えない、水晶細工のような繊細なデザートが鎮座していた。 空振りの振動で極限まで引き出された大根の糖分が、黄金の塩と反応して結晶化し、淡い琥珀色の輝きを放っている。
「……おのれ、そんな見掛け倒しの野菜屑が……これでも食らえッ!!」
フォアグラ卿が、自らのパルフェを差し出すふりをして、隠し持っていた「味覚麻痺の粉」を大審問官の皿へ向かって振り撒いた。 透明な粉が、不可視の凶器となって空を舞う。
「……あ、ダメ。……お行儀が悪いよ」
エリカが動いた。 ――六回目、即興の空振り。 エリカは『大根丸』の腹で、審問官の目の前の空間を「優しく叩いた」。 バシュッ!! 命中率「2」。剣は粉に触れない。しかし、発生した微細な「渦」が、空気よりわずかに重い毒の粉末だけを吸い込み、そのままフォアグラ卿の口の中へと逆流させた。
「ゴフッ!? ゲホッゲホッ!! ……な、何を……あ、あばばばば……」 自らの毒を飲み込んだフォアグラ卿の舌が麻痺し、言葉がもつれ始める。
「さあ、審問を開始する。……まずはフォアグラ卿のパルフェからだ」
大審問官がフォアグラ卿の料理を一口食べる。だが、当のフォアグラ卿は舌が痺れて「あばば」としか言えず、自らの料理の解説すらできない。 そして次に、エリカの『大根の氷華』を口に運んだ。
瞬間。 大審問官の瞳が見開かれ、手手に持っていた銀のスプーンが床に落ちた。
「……これは……。……雪だ。……冬の朝に、窓辺で見つけた、あの純粋な輝きの味がする……」 大根の瑞々しさが喉を潤し、その後に黄金の塩が引き立てる驚異的な甘みが脳を突き抜ける。 それは、贅沢を極めた貴族たちですら忘れていた、「素材そのものが持つ生命」の味だった。
「判決を言い渡す!!」 大審問官が力強く木槌を叩いた。
「被告、エリカ・フェルナンドは無罪! むしろ、帝都の食文化を救った功労者として、過去の負債は全て『フォアグラ卿の不正蓄財』からの没収金で相殺とする!!」
地鳴りのような歓声が法廷を包んだ。 フォアグラ卿は衛兵に引き立てられ、エリカはリノとミラに抱きつかれた。
「やった……やったわエリカ! 借金、完済よ!!」 「エリカさん……本当に、本当にお疲れ様でした……!」
エリカは、空っぽになった調理台を見つめ、いつものようにぽつりと呟いた。
「……借金、なくなった? ……じゃあ、今日は大根、おかわりしてもいい?」
帝都に、本当の春が訪れようとしていた。




