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空振り美食道〜大根一本で魔王と勇者を飼い慣らすまで〜  作者: 向陽葵
【第1部:契約の始まり】

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7/90

迷い込んだ王都:アイアンホールの門を叩け(前半)

目の前には、夢にまで見た冒険者ギルドの重厚な扉。  村で大根を抜き、泥を払い、理不尽に耐えてきた日々。そのすべてが、この扉の向こう側で報われる。エリカの朦朧とした意識の中で、扉はまるで巨大なご馳走の蓋のように見えていた。


「エリカさん、落ち着いて……。まずは身なりを整えて、礼儀正しく……」 「大丈夫、リノ。私、ちゃんと分かってる。……都会の人に、失礼がないように……優しく、開けるから」


 エリカは自分自身に言い聞かせるように呟き、扉の真鍮製の一際大きな取手に手をかけた。  本来なら、洗練された都会の建築機構により、軽く引くだけで滑らかに開くはずの特注品。だが、空腹で思考能力を失ったエリカの「加減」は、すでに崩壊していた。


(開かない……。もっと、力……入れなきゃ……っ!)


 ぐっ、と彼女の細い腕に青筋が浮かぶ。  刹那。


 メキ、という耳慣れない不吉な音が石造りの壁面から響いた。  直後、エリカが思い切り体重を乗せて取手を引くと、そこにあったのは「扉が開く」という物理現象ではなかった。


「…………え?」


 凄まじい破壊音と共に、真鍮の取手が、扉の木材——それも厚さ十センチはあろうかという耐魔オーク材——ごと、円形にえぐり取られたのである。  エリカの右手には、取手がついたままの木材の塊が握り締められていた。


 バランスを崩した扉は、蝶番ちょうつがいが悲鳴を上げて弾け飛び、巨大な盾のような板となってギルドのロビーへと倒れ込んだ。


 ズドォォォォン!!


 地響きがインペリアの街路を揺らし、ギルド内に立ち込めていた安酒と汗の匂いが、土煙と共に外へと溢れ出した。  それまで響いていた、荒くれ者たちの喧騒、依頼の交渉、ジョッキを叩く音。そのすべてが、氷を打ったような静寂へと変わる。


 土煙がゆっくりと晴れていく。  そこには、扉を物理的に「消滅」させた犯人である少女と、その横で泡を吹いて気絶しかけている銀髪の精霊。そして、案の定その衝撃で足を滑らせ、派手に転倒した金髪の剣士の姿があった。


 ギルドの中にいた百人以上の冒険者たちが、手に持った酒をこぼしながら、ぽっかりと空いた「入り口だった穴」を呆然と凝視している。


 静寂の向こう側から、ドスンドスンと、巨大な肉塊が歩くような足音が近づいてきた。 「……ほう。帝都の精鋭騎士団でも、今の時間は非番のはずだがな。誰だ、我がギルドの看板を文字通りぶち壊したのは」


 土煙の奥から現れたのは、熊のような体躯に、鋼のような髭を蓄えた隻眼の大男。  アイアンホールの長、オズワルドが、こめかみに青筋を浮かべて立っていた。

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