美食裁判:舌先の決闘(前半)
「……これより、第128回『美食裁判』を開廷する! 被告、エリカ・フェルナンド!」
帝都最高裁判所。そこは戦場だった。 高い天井まで届く大審問官の椅子。その眼下で、エリカはいつものリヤカーと共に立っていた。対面には、純白のコックコートを纏い、不敵な笑みを浮かべるフォアグラ卿が控えている。
「エリカ、落ち着いて。……お題は『大根を使った、心震えるデザート』。……デザートですよ! スープじゃありません!」 リノが隣で必死に耳打ちする。
「……デザート。……大根さんの、甘いところ、使う」 エリカは『大根丸』をゆっくりと抜き放った。法廷に緊張が走る。
「笑わせるな! 大根のような野卑な根菜で、高貴なデザートが作れるものか!」 フォアグラ卿が手を叩くと、部下たちが最高級のクリームとフルーツ、そして砂糖を山のように運び込んできた。
「私はこの『帝都の誇り(高級マンゴー)』とクリームで、太陽を模したパルフェを作る! 汚らしい大根など、家畜の餌にするがいい!」
裁判開始の鐘が鳴り響く。 フォアグラ卿は手際よくクリームを泡立て、芳醇な香りを法廷内に漂わせる。傍聴席の貴族たちが「おお、素晴らしい」と感嘆の声を上げる。
一方、エリカはじっと大根を見つめていた。
「……一回目、空振り」
ドォォォォォン!!
エリカが法廷の「天井」を叩いた。 衝撃波が空中の塵を払い、一瞬にして法廷内の温度が数度下がる。
「……二回目、ッ!!」
次は、大根の「皮」の数ミリ外側を高速で凪いだ。 命中率「2」の真骨頂。 直接触れない真空の刃が、大根の皮だけを、ミクロン単位の薄さで「螺旋状」に剥き取っていく。その剥かれた皮は、空振りの上昇気流に乗ってキラキラと輝きながら法廷を舞い、まるで透明な羽衣のようになった。
「な、なんだあの動きは!? 皮を剥いているのではない……空気に皮を『躍らせて』いるのか!?」
「……三回目、四回目」
エリカの剣速が上がる。 空振りの衝撃波が、剥き身になった大根の内部を「共振」させ、組織を壊さずに水分だけを霧状に噴出させる。その霧に、エリカが監獄島から持ち出した「黄金の塩」を、空振りで細かく粉砕して混ぜ込んだ。
「……最後。……大根さん、お菓子になって!!」
五度目の一撃。 エリカは、調理台の上の空気を「真っ二つに割った」。




