帝都の門:思い出の味は泥の味(後半)
「……二回目、三回目ッ!!」
エリカの『大根丸』が残像を描く。襲いかかる衛兵たちの槍は、エリカが放つ「空振りの壁」に阻まれ、磁石の同極同士が反発するようにあらぬ方向へと弾き飛ばされた。
「な、なんだこの娘は! 衛兵、何をしている、早く捕らえんか!」 「フォアグラ卿……無理です! 彼女の周囲だけ、気圧が狂っていて近づけません!」
混乱の渦中で、エリカはリヤカーから最高級の『帝都大根』を取り出し、宙へ放り投げた。 「……ミラ、お塩! リノ、お水!」 「任せなさい!」 「はいっ、一気に沸騰させます!」
空中で舞う大根に向け、エリカが「四回目」の空振りを放つ。 シュババババッ!! 直接触れずとも、真空の刃が大根を完璧な乱切りにし、黄金の塩と共に巨大な鍋へと吸い込まれていく。さらにエリカが鍋の「底」の空気を叩くことで、摩擦熱が瞬間的に一万キロカロリーに達し、大根が飴色に透き通っていく。
「……最後。……これが、本当の『帝都の味』だよ」
五度目の一撃。 エリカは広場の中心で、剣を地面スレスレに横薙ぎにした。 ドォォォォォォン!! 爆風が広がり、フォアグラ卿が配っていた泥スープの樽をすべてなぎ倒した。代わりに、エリカの鍋から溢れ出したのは、黄金の塩とマンモスの出汁、そして大根の甘みが溶け合った、目も眩むような芳醇な香りの湯気だった。
「……あ、あぁ……。この匂い……昔、まだ帝都が豊かだった頃の匂いだ……」 一人の老人が、震える手で差し出されたお椀を受け取る。一口啜った瞬間、彼の瞳に涙が溢れた。
「……美味い。……美味いぞ!! これだ、これが俺たちの食べたかった飯だ!!」
その声は連鎖し、瞬く間に広場を埋め尽くした。 食事を終え、活力を取り戻した市民たちが、フォアグラ卿と衛兵たちを包囲し始める。
「おい、フォアグラ! 今まで俺たちに何を食わせてやがった!」 「この娘さんの爪の垢でも煎じて飲ませろ!」
「ひ、ひぃぃぃっ! おのれ、覚えおれ、エリカ・フェルナンド! 次は正式な『美食裁判』で、貴様の舌を抜いてくれるわ!」
フォアグラ卿は捨て台詞を残して逃げ出したが、市民たちの歓声は止まらなかった。 エリカは、空になった鍋を見つめて小さく笑った。
「……よかった。……大根さん、みんなに喜んでもらえて、嬉しそう」
「エリカさん……借金はまだ返せていませんが、今のあなたは、帝都で一番の『英雄』に見えますよ」 リノが誇らしげに言う。だが、エリカの目はすでに、フォアグラ卿が逃げ込んだ「帝都中央キッチン」へと向けられていた。




