帝都の門:思い出の味は泥の味(前半)
「……ただいま。帝都さん。……ちょっと、大きくなって帰ってきたよ」
夕闇に包まれた帝都『グラン・アウル』の外門。 かつて泥を投げつけられ、借金と共に追放されたその門を、エリカは再び潜ろうとしていた。ただし、今回は音速で飛来したリヤカーと、元執行官のザイルを「おまけ」として引き連れて。
「エリカさん、いいですか。今は私たちは『指名手配中の脱獄犯』です。目立たないように、そーっと……」 「そうよ、エリカ。あんたのそのバカでかい剣、布で巻いて隠しなさいよ」 リノとミラが必死に周囲を警戒する。
しかし、エリカの鼻がピクリと動いた。 「……あ。……嫌な匂い。……油が、泣いてる」
エリカが向かったのは、かつて彼女がよく通っていた下町の炊き出し広場だった。 そこでは、傲慢そうな太った貴族が、衛兵を従えて市民たちに「泥のように濁ったスープ」を配り、高い税金を徴収していた。
「ありがたく思え! 帝都の食糧難を救ってやっているのは、我ら『美食貴族・フォアグラ卿』であるぞ!」
そのスープを見たエリカの目が、静かに据わった。 それは、第1部で彼女を陥れ、借金を背負わせた張本人――フォアグラ卿による、粗悪な残飯の押し売りだった。
「……美味しくないものを、みんなに食べさせるのは……犯罪だよ」
「な、なんだ貴様は! 汚らしい浮浪者が、……ん? その顔、どこかで……」 フォアグラ卿がエリカを凝視し、顔を青ざめさせる。
「……おじさん。……大根、食べたことないでしょ。……教えてあげる」
エリカは隠していた『大根丸』を、布ごと一気に引き抜いた。 彼女の周囲に、監獄島で培った「マンモスの熱気」と「黄金の塩の魔力」が渦巻く。
「……はぁぁぁぁぁっ!!」
――一回目、空振り。 エリカは、フォアグラ卿が持っていた銀のひしゃくを狙い……正確に、その「隣の空間」を叩いた。 ドォォォォォォン!!
衝撃波がひしゃくを震わせ、濁ったスープを一滴残らず吹き飛ばした。
「……今から。……本当の、ご飯の時間だよ」




