面会の流儀:ガラス越しでも大根は届く(前半)
「……面会時間だ。囚人番号80000番。暴れるなよ、この部屋は特別製だ」
ザイル執行官に連れられ、エリカは『静寂の面会室』へと足を踏み入れた。 そこは、厚さ三十センチもの「魔導強化ガラス」で仕切られた部屋。音も魔力も一切通さず、会話は備え付けの魔導管を通じてのみ行われる、文字通りの『断絶された空間』だった。
ガラスの向こう側。そこには、無理に落ち着いた表情を作ったリノが座っていた。
「……あ、リノ! 久しぶり! げっそりしてるけど、大根食べてる?」
「エリカさん!! ……あぁ、本当によかった。マンモスを調理して監獄を支配したって聞いた時は、何が起きたかと思いましたよ!」 魔導管越しに、リノの震える声が響く。
「……ミラは? マーカスさんは?」
「ミラさんは今、天井裏でこの監獄の『自爆スイッチ』……じゃなくて、換気扇の修理をしています。マーカスさんは……外のボートで震えてます」 リノは周囲を警戒しながら、机の下から「一本の大根」を少しだけ見せた。
「エリカさん、見てください。黄金の塩の残りで買った、最高級の『帝都大根』です。……これをエリカさんに届けたい。でも、このガラスはドラゴンの息吹でも壊れないと言われていて……」
エリカはガラスに掌を当てた。冷たく、硬い。 だが、今のエリカの体内には、三百年分の熟成を遂げたマンモスのエネルギーが渦巻いている。
「……リノ。その大根、私が……受け取りに行くね」
「えっ? ダメですよ、エリカさん! ここで暴れたら、借金がまた増えちゃいます!」
「……大丈夫。……当たらないように、振るから」
エリカが、鉄枷をはめられた両腕をゆっくりと引き絞った。 監視していたザイルが異変に気づき、腰の鉄鎖に手をかける。
「おい、何を……ッ! 止せ、そのガラスを割れば貴公の刑期は――」
「……はぁぁぁぁぁっ!!」
――一回目、空振り。 エリカは、自分の目の前の「空気」を鋭く突いた。 命中率「2」。ガラスには触れない。 だが、その瞬間、面会室全体の空気が「ガラスに向かって」強烈に圧縮された。




