氷の塔の晩餐:マンモス解凍大作戦(前半)
島の中央にそびえる『絶零の塔』。 そこは、看守ですら年に一度の点検でしか立ち入らない、監獄島最大の禁域だった。
「……寒い。……リノがいたら、温めてくれるのに」 エリカは囚人服の袖を捲り、目の前の巨大な氷塊を見上げた。高さ五メートル。その中には、まるで昨日まで生きていたかのように鮮やかな赤身を持つ、巨大なマンモスの肉塊が封じられていた。
「いいか、エリカ・フェルナンド。その氷は普通の氷ではない。魔力を糧に成長する『魔導氷』だ。下手に触れれば、貴公の体温ごと魂を吸い尽くされるぞ」 ザイルが回廊の端から、防護服越しに警告する。
「……触らなければ、いいんだよね? ……あと、温めれば、溶けるよね?」
エリカは、凍りついた大理石の床に裸足で踏ん張った。 彼女が狙うのは、氷塊そのものではない。氷塊を包む「空気」だ。
「……はぁぁぁぁぁっ!!」
――一回目、空振り。 エリカは、氷塊の数センチ手前の空気を、手刀で真横に切り裂いた。 ドォォォォォン!! 空振りの摩擦によって発生した熱が、一瞬だけ青白い氷の表面を濡らした。だが、魔導氷は即座に周囲の熱を吸収し、さらに分厚く凍りつこうとする。
「無駄だ。その程度の熱では、氷の成長速度には勝てん」
「……ううん。……今のは、準備運動。……二回目、三回目、連続ッ!!」
エリカの両腕が、目にも止まらぬ速さで左右交互に空振りを繰り出す。 命中率「2」。彼女の拳は、決して氷に触れない。 しかし、左右から交互に放たれる「熱を帯びた真空」が、氷塊の周囲に超高速の『空気の竜巻』を作り出した。 摩擦、摩擦、摩擦!! エリカの超人的な腕力が生み出す空気摩擦は、もはや調理場の火力を超え、塔内の温度を一気に夏日のように引き上げた。
「なっ……魔力を封じられた状態で、純粋な空気摩擦だけで塔の温度を上げているのか!? 貴公の筋肉はどうなっている!」
「……最後! ……お肉を、起こしてあげて!!」
五度目の一撃。 エリカは氷塊の「ど真ん中」へ向けて、渾身の突き(空振り)を放った。 ズォォォォォォン!!!
氷塊の内側に、エリカの放った「振動の塊」が侵入する。氷の殻には傷をつけず、その中にあるマンモス肉の細胞だけを、一秒間に数万回振動させる究極の『空振り電子レンジ』。




