監獄の洗礼:鉄格子の向こうは美食のパラダイス(後半)
「……これ、最後。……美味しくなれ、パンチ!!」
エリカの五度目の一撃。それは、鍋の真上の「空間」を真っ向から撃ち抜く、正真正銘の全力空振りだった。
――ドォォォォォォォン!!!
配給場の天井が揺れ、埃が舞い落ちる。だが、その衝撃の直後、灰色の粥は「黄金色のリゾット」へと変貌を遂げていた。 エリカが空振りの摩擦で発生させた熱と、真空圧によって引き出された野菜屑の凝縮された旨味。さらに、彼女が監獄の壁の隙間から「空振りで吸い出した」わずかな黄金の塩の粉末(※ミラの作戦でリヤカーから飛散していた分)が、完璧な調和を生んでいた。
「……あ、あぁ……。俺は、今まで何を食っていたんだ……」 バルカスが震える手で粥を口に運ぶ。 「これは……残飯じゃねえ。……『希望』だ!!」
その叫びを合図に、食堂は騒然となった。 飢えた囚人たちが我先にと鍋に群がり、さらには異常事態を聞きつけて駆けつけた看守たちまでもが、警棒を捨てて列に並び始めた。
「こら! 囚人は後だ! まずは我々法執行官が毒見を……あぁぁっ、美味い! 故郷のお袋の味がする!」 「おい、並べよ! ここではエリカ様が『法』なんだよ!」
混沌とする配給場。その中心で、エリカは満足そうに空の器を眺めていた。 だが、その騒ぎを冷徹な目で見下ろす影が一つ。
「……ふん。食事で人心を掌握するか。……やはり、貴公は生かしておけん」 上層階の回廊に立つ、ザイル執行官だった。 「だが、ちょうどいい。島の中央塔に眠る『禁断の肉』……。それを調理できる者を探していたのだ。……エリカ・フェルナンド。貴公に最後のチャンスをやろう」
ザイルが指し示したのは、島の中央にそびえ立つ、氷に閉ざされた巨大な冷凍塔。 そこには、三百年前に帝都の美食王が封印したとされる、伝説の超弩級食材『氷河マンモス』の肉が眠っていた。
「あれを『空振り』で解凍し、最高の一皿に仕上げてみせろ。成功すれば、貴公の借金のうち三万アウルを帳消しにし、仲間との面会を許そう」
「……マンモス。……大きいお肉?」 エリカの瞳が、黄金の塩を手に入れた時以上に輝いた。
「よし。……マンモスさん、美味しく食べてあげるね!!」
監獄の債務王、ついに「伝説の食材」と対峙する。




