黄金の飛沫:雷の下で踊る塩(後半)
「……ダメだよ。そのお塩、大根さんに……かけるんだから!!」
頭上を覆い尽くす雷電エイの巨影。放電の余波でジャックの船の計器が火花を吹き、ミラたちの髪が静電気で逆立つ。だが、エリカは『大根丸』を力強く握り直し、甲板を蹴った。
「リノ、水! 船の周りに、大きな水の壁を作って!」 「ええっ!? 水は電気を通しちゃいますよ!」 「いいから! ……電気を、全部あっちに流すの!」
リノが必死に海水を巻き上げ、船の周囲を水のドームで覆った瞬間、エリカが宙を舞った。
「――四回目ッ!!」
エリカはエイの「すぐ右側の空間」を、全力で縦に切り裂いた。 ドゴォォォォォン!! 空振りの衝撃波がエイの翼を激しく叩き、そのバランスを崩させる。同時に、真空の道が「避雷針」となり、エイが溜め込んでいた高圧電流を、リノが作った水の壁を通して海へと一気に放電させた。
「……ブ、ブォォォォ!?」 放電により無防備になったエイ。その懐に、エリカはさらに肉薄する。
「……最後! 黄金のお塩、返して!!」
五度目の一撃。 エリカはエイの口元の空気を、すくい上げるように空振った。 猛烈な上昇気流が発生。エイが飲み込もうとしていた数百キロの『黄金の塩の結晶』が、口の中からポンッと吐き出され、宝石の雨となって甲板に降り注いだ。
さらに、空振りの余波による「微細な振動」が、エイの全身をマッサージするように駆け巡り――。 バチバチバチッ! 自分自身の残った電気で、エイは空中で「うっすらと焼き色のついた白身」となり、海へと沈んでいった。……その際、エリカが空振りの風圧で剥ぎ取った「ヒレの一部」だけが、完璧な炙り加減で甲板に不時着した。
「……あ、美味しそう」
嵐が嘘のように、一瞬の静寂が訪れる。 甲板には、夕日のような輝きを放つ黄金の塩の山。そして、焼きたてのエイのヒレ。
「……信じられねえ。雷の化物を『空振り』で感電させて、ついでに調理しやがった……」 ジャックが舵を離し、腰を抜かして笑う。
「エリカさん、すごいです! この塩……たった一握りで借金一万アウルは下りませんよ! この量なら……!」
エリカは黄金の塩を一粒つまみ、エイのヒレに乗せて口に運んだ。 パチパチと弾けるような刺激の後、海の濃厚な旨味が広がる。
「……美味しい。……リノ、これ、大根さんにかけたら……世界で一番美味しいよ」
借金返済の旅は、ついに大きな転換点を迎えた。 だが、黄金の塩を大量に手に入れたエリカたちを、港で待っていたのは歓迎の列ではなく、彼女の首にかかった「新たな懸賞金」を狙う、帝都からの刺客だった。




