黄金の飛沫:雷の下で踊る塩(前半)
「……わぁっ! 空からお塩が降ってくる準備をしてるよ!」
船が『静まらぬ大渦』の境界を越えた瞬間、世界は一変した。 昼間だというのに空は暗転し、巨大な雷雲が生き物のようにうごめいている。数秒おきに落ちる黄金の雷撃が、海面を焼き、凄まじい蒸気と共にキラキラと輝く「結晶」を跳ね上げていた。
「エリカ、あれよ! あれが黄金の塩! 雷が海水の魔力を瞬時に焼き固めた、究極の調味料よ!」 ミラがマストにしがみつきながら叫ぶ。
「……拾う! リノ、網……じゃなくて、バケツ持ってきて!」 「エリカさん、無理です! 船がこれだけ揺れていたら、近づく前に雷に撃たれて焼き大根になっちゃいますよ!」
ジャックが舵を必死に抑えながら怒鳴る。 「おい、小娘! 運がいいぜ、今日は『雷の精霊・ヴォルガ』がご機嫌だ! だが、あの大渦の中心に落ちる雷に近づける船はこの世にねえ。……どうする、諦めるか!」
「……ううん。……近づけないなら、……雷ごと、こっちに呼べばいいんだよね?」
エリカは揺れる甲板に、まるで根が生えたかのように直立した。 彼女は『大根丸』を頭上でプロペラのように回転させ始める。
「……はぁぁぁぁぁっ!!」
――一回目、空振り。 エリカは船の直上の「空」を全力で薙いだ。 瞬間、空振りの真空が雲を吸い寄せ、船の真上に巨大な「避雷針」のような空気の道を作り出した。
「二回目、三回目ッ!!」 さらに空振りを重ね、エリカは船の周囲の気圧を急激に変化させる。 狙いは、海面に落ちようとしている雷の「進路」を、空振りの衝撃波で捻じ曲げること。
――バリバリバリィィィッ!!
黄金の雷が、エリカが作った「空気の道」に引き寄せられ、船のすぐ数メートル横の海面へと誘導された。 凄まじい衝撃と共に海面が爆発し、見たこともないほど巨大な「黄金の塩の塊」が、宙高く舞い上がる。
「……あ、美味しそうな色がした!」
だが、その黄金の塩の塊を狙って、海中からさらなる影が飛び出した。 雷のエネルギーを主食とする深海の怪物、『雷電エイ(ボルト・レイ)』。その翼は百メートルにも及び、せっかくの塩を飲み込もうと、エリカたちの船ごと覆い被さってきた。
「エリカさん!! お塩が……お塩が食べられちゃいます!!」




