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空振り美食道〜大根一本で魔王と勇者を飼い慣らすまで〜  作者: 向陽葵
【第2部:帝都追放? 借金まみれの美食旅】

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52/90

黄金の調理場:冷え冷えメロンと鋼鉄のシェフ(後半)

「……大根を……搾りかすって……言ったな!!」


 エリカの周囲に、凄まじい風が渦巻いた。  熱暴走し、四本の腕を高速回転させて迫りくるアイアン・マスターシェフ。その熱気がメロンの甘い皮を焦がし始めた瞬間、エリカは『大根丸』を逆手に持ち、厨房の「天井」へと振り抜いた。


「――四回目ッ!!」


 ドォォォォォォン!!


 一撃。空振りの衝撃波が、天井に張り巡らされていた古代の「氷結魔導管」を直撃(のすぐ横を通過)。その振動だけで管が破裂し、中から数千年前の極低温の魔力冷却水が、滝のように降り注いだ。


「警告。……過冷却発生。……調理、不可能……」 「今だよ、リノ!!」 「わかってます! 拡散氷結、展開!!」


 リノの魔法が降り注ぐ冷却水を捉え、エリカの「空振りの風」がそれをシェフの周囲に均等に撒き散らす。  シュゥゥゥゥゥゥッ!! と凄まじい蒸気が上がり、熱々だったシェフの巨体が、一瞬にしてカチンコチンに氷漬けになった。


「……最後。……メロンは、冷たいのが一番なんだから!」


 五度目の一撃。  エリカは、氷に閉じ込められたシェフが握っていた「巨大な包丁」のすぐ横を、真横に薙いだ。


 バシュゥゥゥン!!


 直接当たってはいない。  だが、エリカの放った真空波が、シェフが構えていた包丁の「切れ味」だけを前方へ飛ばした。いわゆる『空振りの飛ぶ斬撃』だ。  その斬撃が、空中に放り出されていた『オアシス・メロン』を、一糸乱れぬ正確さで十六等分にスライスし、さらにその断面に、リヤカーから飛び出した「大根の薄切り」を芸術的に挟み込んでいった。


 ――カラン、カラン……。


 黄金の皿の上に、完璧な盛り付けで着地する『メロンと大根の古代風冷製オードブル』。


 沈黙。  氷漬けになったシェフの瞳が、ピコーンと一度点滅した。 「……調理完了。……評価:神級。……大根の繊維がメロンの糖分を保持し、究極の食感を実現。……私は、……敗北した」


 シェフが完全に停止すると同時に、厨房の奥の扉がゆっくりと開いた。  そこには古代の金貨ではなく、この遺跡を管理するための「黄金のマスターキー(通行手形)」が鎮座していた。


「……やったぁぁ! メロン、食べよう! リノ、ミラ、マーカスさん!」 「エリカさん……借金返済の前に、このメロンだけで私たちの寿命が五年は延びそうな味がしますよ……」


 砂漠の地下、黄金の厨房で、一行は至高のデザートに舌鼓を打った。  借金は……まあ、このマスターキーを帝都の考古学ギルドに売れば、相当な額になるはずだ。


「……でも、食べたら全部忘れちゃいそうなくらい、美味しいね」


 エリカの幸せそうな声が、古代の遺跡に響いた。

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