熱砂の洗礼:メロンのためなら砂漠も掘る(前半)
「……あつい。……リノ、これ、大根が干し大根になっちゃうよ」
天貫山脈を越えた先に広がっていたのは、見渡す限りの黄金色――『死の吐息・ゴビ砂漠』であった。 気温は優に五十度を超え、空気はオーブンのように肌を焼く。リヤカーの車輪は熱せられた砂に沈み、普通なら一歩進むのも絶望的な環境だが、エリカは『大根丸』を杖代わりに突き立て、黙々と進んでいた。
「エリカさん、頑張ってください。この砂漠のどこかに、地下水脈の恵みを一身に浴びて育つ『オアシス・メロン』があるはずです。……なんでも、一口食べれば全身の細胞が若返り、砂漠を百キロ走れるほどの水分が溢れ出すとか」
「……若返らなくていいから、……食べたい。……冷たくて、甘い、緑のやつ……」 エリカの瞳に、蜃気楼ではない、本物の執念の火が灯る。
「ちょっと! 二人とも、おしゃべりはそこまでにして。……来てるよ。砂の下から、この熱気より嫌な感じが」 ミラが短剣を抜き、砂の表面を見つめる。
ズズズ……。 一見、風で砂が動いているように見えるが、それは規則正しくエリカたちの周囲を円を描くように動いていた。
「……ブフォッ!!」
突如、砂が爆発した。 現れたのは、体長五メートル。皮膚が岩石のように硬化した巨大な鮫、『サンド・シャーク(砂岩鮫)』だ。背びれが砂を切り裂き、リヤカーの積荷――大事な大根――を狙って大きく口を開けた。
「ひ、ひぃぃぃ! サメだぁ! 砂漠なのにサメが出たぁぁ!」 マーカスがいつものようにリヤカーの影で震える。
「……ダメ。……大根は、冷やし中華にするから……あげない!」
エリカは、熱せられた砂の上に踏ん張った。足の裏が焼けそうだが、メロンへの欲求が痛みを麻痺させている。
「……はぁぁぁぁぁっ!!」
――一回目、空振り。 エリカは『大根丸』を、砂を泳ぐサメの「鼻先」に向かって叩きつけた。 ドォォォォォン!! 衝撃波が砂を噴水のように跳ね上げ、サメを地上へと無理やり引きずり出す。
「……逃がさない。……二回目、ッ!!」
空中で暴れるサメに対し、エリカは追撃の横薙ぎ。 当然、当たらない。 だが、その「空振り」が砂漠の熱気を一箇所に集め、強烈な「熱風の壁」を作り出した。
「リノ、ミラ、マーカスさん! ……今のうちに、サメの下を掘って! メロンは……サメが守ってる、一番熱い場所にあるはずだから!」




