関所の難題:不機嫌な門番と究極の煮込み(前半)
湿地帯を抜け、一行の前に立ちはだかったのは、大陸を南北に分かつ『天貫山脈』の唯一の入り口、アイアン・ゲート関所であった。 そこには、帝都の借金取りよりも不機嫌そうな顔をした門番たちが、槍を交差させて道を塞いでいた。
「止まれ、リヤカーの一団! ……おい、なんだその背後に引きずっている巨大な肉の塊は。魔物の死骸の持ち込みは特別関税がかかるぞ」 隊長格の男が、髭を弄りながらエリカを睨む。
「……あ、これ、晩ごはんの残りです」 「晩ごはんの残りでワニ一頭引きずる奴があるか! ……それと、お前の名前……エリカ・フェルナンドだな。帝都から指名手配(※高額債務者として)の通達が来ている。通したければ、通行料三千アウルを払え」
「……さんぜん、あうる」 エリカの脳内に、大根およそ百本分の価値が浮かび、即座に絶望の色が広がった。所持金は、湿地で拾った泥だらけの1Cのみだ。
「……ミラ、どうしよう。お金ないよ。……この関所、空振りの風圧で開いちゃうかな?」 「エリカ、やめて! ここを壊したら本当に一生逃亡生活だよ!」 ミラが慌ててエリカの腕を抑える。
その時、関所の奥から「ああ、もう食えたもんじゃねえ!」という怒鳴り声と、金属の食器が床に転がる音が聞こえてきた。 「……どうした、また炊事当番が逃げ出したのか?」 「はい、隊長。ここの寒さと湿気のせいで、保存食はカビるし、肉は硬くなる一方で……兵士たちの士気はどん底です。まともな飯が食えるまで門は開けねえって、みんな座り込みを始めてます」
隊長が頭を抱えたその瞬間。 エリカの鼻が、ピクピクと動き始めた。
「……ねえ。おじさん。……私が、美味しいもの作ったら、通してくれる?」 「あん? 小娘、お前に何ができる。ここの厨房には、まともな薪もなければ、包丁も錆びついて――」
エリカは無造作に、背中の『大根丸』を抜いた。 そして、リヤカーから最高級の『雪どけ大根』と、湿地で仕留めた『ワニのキノコ肉』を引っ張り出す。
「……包丁なら、これがあるよ。……リノ、火を貸して。ミラ、味見の準備!」
エリカの「料理(物理)」が、難攻不落の関所をターゲットに定めた。




