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空振り美食道〜大根一本で魔王と勇者を飼い慣らすまで〜  作者: 向陽葵
【第2部:帝都追放? 借金まみれの美食旅】

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42/90

湿地の誘惑:巨大キノコは鍋の主役(後半)

「……ブシュルルルルッ!!」


 沼地の巨顎、マッシュ・クロコダイルが泥を撥ね上げて咆哮した。その背中には毒茸が群生し、尾の一振りでリヤカーを木っ端微塵にする破壊力を秘めている。


「エリカ、気をつけて! あのワニ、背中のキノコから麻痺毒の胞子を撒いてる!」  ミラが警告するが、エリカはすでに『大根丸』を力強く握り込み、腰を落としていた。


「……毒なんて、火を通せば大丈夫。……リノ、あのワニ、身の中にキノコの味が染み込んでるって本当?」 「はい! この地方の古文書には、キノコと共生したワニの肉は『森の至宝』と呼ばれ、借金一万アウル分にはなると書いてあります!」


「一万アウル……。……食べる。絶対に食べる!!」


 エリカが地を蹴った。泥濘の上を、あたかも平地であるかのように爆走する。


「はぁぁぁぁぁっ!!」


 ――一回目、空振り。  全力で振り下ろした剣は、ワニの鼻先の泥を叩いた。  ドゴォォォン! と泥の柱が上がり、視界を塞がれたワニがたじろぐ。


「――二回目ッ!!」  続けざまの横薙ぎ。これもワニの喉元を僅かに逸れた。しかし、生じた衝撃波がワニの分厚い皮膚を「マッサージ機」のように激しく振動させ、巨躯を横倒しにする。


「……ブモッ!?(なんだこの理不尽な衝撃は!?)」


 三回目、四回目。  空振りするたびに、エリカの周囲の泥が「真空の穴」によって吸い寄せられ、巨大な泥の球体となってワニの上に降り注いだ。  気づけば、ワニはエリカの「外れまくった攻撃の余波」によって作り出された泥の監獄に閉じ込められ、身動きが取れなくなっていた。


「……最後。これで、キノコとワニ肉、ゲットだよ!」


 五度目の一撃。  エリカは『大根丸』を逆手に持ち、渾身の力で「ワニのすぐ隣」の地面へ突き刺した。    ズォォォォォォン!!!


 地脈そのものを揺るがすような一撃。  その衝撃は、ターゲットであるワニには一切触れなかった。  しかし、その「空振り」によって発生した凄まじい上昇気流が、ワニの背中に生えていた『ハライッパイ・ダケ』の幼体だけを、根こそぎ綺麗に刈り取った。


「……あ、飛んでった」


 飛んでいったのは、キノコだけではない。  あまりの風圧に、ワニはひっくり返り、そのまま「自分自身の重み」で泥の中に深く沈み込んでしまった。バタバタと暴れるワニの尻尾が、偶然にもミラが構えていたリヤカーの空きスペースにスポッとはまり込む。


「……え、嘘でしょ。これ、運ぶの?」  ミラが呆然とする中、エリカは空から降ってきた巨大なキノコを、両手で見事にキャッチした。


「やったぁ! リノ、見て! キノコと、おまけのワニ肉だよ!」


 結局、彼女たちは動けなくなった巨大ワニを引きずりながら、湿地帯を脱出することになった。  その日の野営地。  大根と『ハライッパイ・ダケ』、そしてワニ肉の贅沢な「借金返済(予定)鍋」が、夜の静寂の中に極上の香りを漂わせた。


「……美味しい……。ねえ、リノ。借金、あと何回食べれば返せるかな?」 「エリカさん、食べるんじゃなくて売るんです! でも、……まあ、一口くらいなら毒見しましょうか」


 彼女たちの旅路は、まだ始まったばかり。  胃袋は満たされたが、財布はまだ、驚くほど軽い。

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