背負うのは剣と借金と大根(前半)
帝都の夜明けは、常に活気と希望に満ちている――はずだった。 北門の門前、まだ朝靄が立ち込める中、そこには帝都始まって以来の「奇妙な一団」が立ち尽くしていた。
「……ねえ、リノ。これ、本当に全部持って行かなきゃダメかな?」 エリカが指差したのは、特注の巨大な木製リヤカー。そこには、優勝賞品の『雪どけ大根』三百六十五本が、見事なピラミッド状に積み上げられている。その総重量、優に数百キロ。
「当たり前です! 借金八万アウルの私たちが、この大根を捨てて何を食べろと言うんですか! これは私たちの『移動式備蓄基地』です!」 リノは涙目で、リヤカーの車輪に注油をしていた。
「……あたし、プロの盗賊なんだけどな。なんで大根満載のリヤカーを引いて、国境を越えなきゃいけないわけ?」 ミラが頭を抱えて呟く。彼女の腰には、戦利品のナイフではなく、大根の皮を剥くための「予備の包丁」がぶら下がっていた。
「ガッハッハ! いいじゃねえか、ミラちゃん。これこそ冒険だ! 帝都の連中も、あの競技場を壊したエリカがまだ市内にいると知ったら、暴動が起きるからな。……な、マーカス?」 「……俺はただ、聖騎士団に目をつけられたから、ほとぼりが冷めるまで逃げたいだけだ……」
一行が門を抜けようとしたその時。 白馬に跨り、白銀の甲冑を輝かせたあの男が、行く手を塞ぐように現れた。
「……アルトリウスさん」 エリカが身構える。また修理費の追加請求か、あるいは投獄か。
「……案ずるな。今日は捕縛に来たのではない。……陛下よりの勅命だ」 アルトリウスは、厳かな手つきで一通の書簡を差し出した。 「『破壊の娘エリカとその一行。貴公らの負債は多大なり。よって、各地に現れる魔物の討伐、および未開の地の特産品の献上をもって、その借金を相殺することを許可する』……とのことだ」
「……特産品? 食べ物のこと?」 「そうだ。帝都では味わえぬ伝説の食材を、宮廷に届けるのだ。……そして、私はその『監視役』として、不定期にお前たちの前に現れることになるだろう」
アルトリウスは馬を翻し、エリカを鋭く見据えた。 「死ぬなよ、エリカ。お前が死ねば、誰がこのクレーターだらけの街を直す費用を払うのだ」
「……うん! 頑張って美味しいもの見つけて、全部食べて……じゃなくて、半分くらい届けるね!」
こうして、一人の剛力娘と三人の不運な仲間たち、そして三百六十五本の大根を乗せたリヤカーは、果てなき借金返済の旅路へと一歩を踏み出した。 目指すは、南の湿地帯に生息するという、肉より美味い伝説の巨大キノコ『ハライッパイ・ダケ』。




