頂上決戦:大根の神はどちらに微笑むか(後半)
「……いただきますッ!!」
エリカが叫び、地を蹴った。 五度目の一撃。放たれた『大根丸』は、もはや鉄の塊ではなく、黄金色のスープに輝く「巨大な箸」の如き鋭さで空を切り裂いた。
――ズドォォォォォォォン!!!
一回目から四回目までの空振りで蓄積された演武場の不安定な地圧。それが最後の一撃による「空振りの風圧」で一気に解放された。 エリカの剣は、鉄仮面の鼻先を掠めることすらなく、その右側十センチの空間を豪快に空振った。
だが。
「ブモォォォ!?」 空振ったはずの空間から、圧縮された大気が爆発的に膨張した。鉄仮面は、あたかも「透明な巨人のデコピン」を食らったかのように、その重装甲ごと真横へと弾き飛ばされたのだ。
吹き飛ぶ鉄仮面。その拍子に、彼の胸にあったバッジが、エリカの放った「真空の刃」の端っこに触れ――。 パリン、と。 氷細工のように、儚く、しかし確実に砕け散った。
「……そ、そこまでッ!! 勝者、エリカ・フェルナンド!!」
審判の絶叫が、静まり返った競技場に響き渡った。 鉄仮面は競技場の壁にめり込み、文字通り沈黙した。
「……やった。……やったよ、リノ。大根、……大根一年分……!」
エリカは、砕けた石畳の上に膝をつき、目の前に積まれた大根の山を見上げた。 夕日に照らされた三百六十五本の大根たちは、彼女にとってどんな金銀財宝よりも美しく輝いていた。 彼女は一番上にある大根を震える手で掴み取ると、観客の視線も、アルトリウスの呆れ顔も、ミラの計算高い笑みも全て無視して、高らかに勝利を宣言した。
「みんなー! 今日の晩ごはんは、大根パーティーだよーー!!」
その瞬間。 ギルドマスターのオズワルドが、手に一枚の「非常に長い紙」を持って、エリカの背後に現れた。
「……おう、エリカ。優勝おめでとう。大根一年分、しっかり受け取れよ」 「うん! オズワルドさん、ありがとう!」
「……で、これが今回の『競技場修繕見積書』だ。……ハンスの治療費、セドリックの精神療養費、壁三箇所の穴、石畳全損……。差し引きして、お前の借金は――」
「…………え?」
「合計、八万アウルに増えたぞ。ガハハハ!」
エリカの手から、大根がポロリと落ちた。 大根三百六十五本を手に入れた喜び。それと同時に、一生かかっても返せそうにない巨額の借金。
エリカの、本当の意味での「借金返済の旅」は、ようやくここから始まるのであった。




