頂上決戦:大根の神はどちらに微笑むか(前半)
帝都中央競技場。満身創痍の石畳と、穴だらけの防壁。もはや「遺跡」のような有様となったその中心に、一本の巨大な旗が立てられた。 その旗の麓には、白く瑞々しく輝く、選び抜かれた『雪どけ大根』三百六十五本が、神々しく積み上げられている。
「……リノ。あの大根、見て。……私を呼んでる」 「エリカさん、あれは大根の神様じゃなくて、ただの景品です。……でも、確かにすごい殺気、いえ、活気ですね」
エリカの前に立ちはだかったのは、全身を分厚い黒鉄の鎧で固めた、言葉を発しない巨漢だった。名を『美食の鉄仮面』。彼もまた、エリカと同じく予選の全試合を「相手のバッジを狙わず、周囲の炊き出しを完食する」という奇行で勝ち上がってきた、ある種の同類である。
「……ブモォォォォォン!!」 鉄仮面が咆哮した。それは気合というより、猛烈な「腹の音」に近い。
「決勝戦、……開始ッ!!」
合図と共に、エリカは『大根丸』を力任せに振るった。 だが、魔力はすでに底をついている。放たれるのは、ただの「重すぎる鉄塊」を振り回すことによる物理的な暴力だ。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
――一回目、空振り。 鉄仮面の横を通り過ぎた『大根丸』は、そのまま地面に突き刺さった。 しかし、魔力がなくとも、エリカの腕力だけで引き起こされた風圧が、鉄仮面の全身を激しく揺さぶる。
「……ブモッ!?」 鉄仮面は驚異的な踏ん張りをみせた。彼はその巨体を生かし、エリカの「空振りの余波」に真っ向から突進してきたのだ。狙いは、エリカの背後にある「大根の山」を巻き込むような、相打ち覚悟のタックル。
「ダメっ! 大根は……渡さないっ!!」
二回目、三回目、四回目。 エリカは必死に剣を振り上げるが、極度の空腹により腕の震えが止まらず、狙いは「2」からさらに大きく外れていく。 右へ、左へ、空を切り、地面を穿つ。
気づけば、二人の周囲の石畳は全て粉砕され、二人は「浮き島」のような不安定な岩場の上に立っていた。
「……はぁ、はぁ。……あと、一回。……次で、仕留める……!」
エリカは、震える手で『大根丸』を正眼に構えた。 五度目の正直。 彼女の視界の中で、鉄仮面の胸にあるバッジが、何故か「輪切りにされた煮込み大根」に見え始めていた。
「(……あ、美味しそう)」
究極の空腹がもたらした幻覚。 それが、エリカの潜在能力を未知の領域へと押し上げた。




