鉄壁の盾:当たらなければ壊れるまでよ(後半)
「……や、やめろ! 揺らすな! 計算が、術式の維持計算が狂う――ッ!!」
障壁の中にいたはずのセドリックは、今や透明な巨大なサイコロの中に閉じ込められたネズミのように、上下左右に振り回されていた。エリカが『大根丸』を空振りするたびに生じる真空の塊と土石流が、彼の「絶対防御」を物理的に押し流し、演武場の壁へと叩きつけているのだ。
「セドリックさん、頑張って! もうすぐ、美味しい大根が手に入るから!」 「誰が……っ、お前の……大根のために、吐き気を……我慢できるかぁぁぁ!!」
エリカの五度目の一閃。 それは狙いよりも大きく下方に逸れ、セドリックの障壁の「真下の地面」を、土台ごと爆破するように粉砕した。
ドゴォォォォォン!!
土砂の噴水が上がり、セドリックの障壁は空中へと打ち上げられた。 無重力状態になった障壁の中で、セドリックは天地が逆転する感覚に襲われ、ついに術式の維持を放棄した。
パリィィィィィィィン!!
飴細工のように美しい幾何学模様が砕け散る。 無防備になったセドリックは、そのままエリカが空振りで作り出した「上昇気流」に乗って、ハンスが突き刺さっているクレーターの隣へと優雅に(?)着陸した。
「……うぷっ。……お、俺の負けだ……。もう、一歩も、動け……ん……」 セドリックは胸のバッジを自ら地面に置き、そのまま仰向けになって動かなくなった。
審判が、もはや「これ、試合って呼んでいいのか?」という戸惑いを隠せない顔で手を挙げる。 「……しょ、勝者、エリカ・フェルナンド!!」
「やったぁぁぁ! 二勝目!!」 エリカが喜びのあまり『大根丸』を地面に突き立てると、その重みだけで演武場の中央に新たな亀裂が走った。
「……エリカさん、喜んでいるところ申し訳ないですが、見てください。観客が『次はどこが壊れるか』で賭けを始めていますよ」 リノの言う通り、観客席はもはや勝負の行方よりも、エリカの「空振りの余波」が次にどの施設を破壊するかに熱狂していた。
そんな中、ミラが青ざめた顔でエリカの袖を引いた。 「……エリカ、次の相手が決まったよ。……最悪だ」
「え? 大根より怖い人?」 「ある意味ね。……次は準決勝。相手は――『影の蛇』の雇われ剣士。……あたしたちが昨日やり合った連中の『本物』だよ」
ミラが指差す先、待機席に座っているのは、全身を包帯で巻いたような異様な男。 その男の周りだけ、空気が死んでいるかのように静まり返っていた。




