お祭り騒ぎ:優勝賞品は大根一年分?(後半)
「始めッ!!」
審判の合図と同時に、ハンスの姿が掻き消えた。 雷鳴の如き踏み込み。彼は瞬時にエリカの背後を取り、その電光を纏った二刀で、彼女の胸のバッジを掠め取らんとした。
「速いっ! これが『蒼き鷲』の真髄――」 実況の声が響く中、エリカは全く異なる方向を見ていた。
(あ、あそこにある大根の山……一番上のが一番美味しそう……!)
集中力。それは時として、予測不能な動作を生む。 エリカはハンスの接近に気づくどころか、大根への想いに身を任せ、無意識に背中の『大根丸』を振り回した。
「――っ、ちょ、えっ!?」 ハンスの背筋に冷たい戦慄が走る。 エリカが「ふわっと」振ったはずの剣。それは命中率「2」ゆえに、当然ハンスには当たらない。だが、その巨大な質量が音速を超えて空気を切り裂いた瞬間、演武場に**「真空の断層」**が発生した。
ドォォォォォォン!!
ハンスは攻撃を受けたわけではない。 ただ、エリカが剣を振ったことによって生じた「凄まじい気圧の変化」に巻き込まれ、まるで木の葉のように空高く舞い上げられたのだ。
「う、うわあああぁぁぁぁ!?」 「あ、ハンスさん! どこ行くの!?」
エリカは空振りした勢いで一回転し、さらに二撃目を放つ。 今度は、逃げ場を探して空中を蹴ったハンスの、さらに三メートル下を通過した。 だが、その余波が演武場の地面を「直径五メートルのクレーター」へと変え、噴き上がった土砂の礫が、ハンスのバッジを直撃して粉々に粉砕した。
審判の笛が鳴り響く。
「……しょ、勝者、エリカ・フェルナンド! 相手バッジの破壊を確認!」
演武場は、水を打ったような静寂に包まれた。 ハンスはクレーターの縁に逆さまに突き刺さり、ピクピクと足を震わせている。彼は一太刀も浴びていない。ただ、「近くで剣が振られた」というだけの事実に、その心はへし折れていた。
「……ねえ、リノ。今の、当たった?」 「エリカさん。当たっていません。……むしろ、ハンスさんの自尊心と演武場の予算を、再起不能なまでに粉砕しました」
観客席の貴賓席。 そこでは、アルトリウスが眉間を押さえて深く、深いため息を吐いていた。 「……やはりか。あの娘に『加減』という言葉を期待した私が愚かだった」
しかし、そんな空気をお構いなしに、エリカは拳を突き上げた。 「やった! 一勝! あと三回勝てば、大根三百六十五本……!」
エリカの「食欲の進撃」が、帝都の平和(と公共施設)を脅かしながら、本格的に幕を開けた。




