お祭り騒ぎ:優勝賞品は大根一年分?(前半)
帝都は今、年に一度の熱狂に包まれていた。 各区の冒険者ギルドが威信をかけて競い合う『帝都ギルド対抗戦』。優勝したギルドには多額の報奨金と、その年の一番名誉ある依頼が優先的に回される特権が与えられる。
だが、エリカがその大会の看板を食い入るように見つめていた理由は、そんな名誉ではなかった。
「……リノ。見て。あそこに書いてあること、本当かな?」 「ええと……『副賞:帝国御用達・雪どけ大根三百六十五本(一年分)および、最高級特製味噌一樽』。……本当みたいですね。というか、エリカさん以外にこれを狙う人がいるんでしょうか……」
「出る! 私、絶対に出る! 大根三百六十五本があれば、来年までご飯の心配しなくていいもん!」
エリカの決意は固かった。 ザックから「陰謀に巻き込まれるから目立つな」と釘を刺されていたことなど、大根の魅力の前では露ほども残っていない。
大会当日。 帝都中央競技場には、屈強な冒険者たちが顔を揃えていた。 精霊術師の集団、重装歩兵のパーティー、そして暗殺者まがいの身軽な一団。その中で、泥だらけの外套を羽織り、身の丈ほどもある黒い鉄塊『大根丸』を背負った少女は、ある意味で一番目立っていた。
「おい、見ろよ。あの『落ちこぼれ』ギルドから、女の子が一人で参戦か?」 「あの剣、本物かよ。あんなの、持ち上げるだけで精一杯だろ」 周囲の冷やかしを、エリカは全く聞いていなかった。彼女の鼻は、競技場の裏手に山積みにされた「賞品の大根」の香りを、風に乗って正確に捉えていた。
「……エリカさん、一応確認ですが、大会のルールは『相手の胸のバッジを落とすか、降伏させるか』です。建物を壊したり、対戦相手を地平線の彼方まで飛ばしたりするのは失格ですからね?」 「わかってるよ、リノ。……優しく、ふわっと振るから大丈夫!」
「その『ふわっと』が、普通の人にとっての『隕石直撃』だってことに気づいてください……」
審判が中央に立ち、高らかに声を張り上げた。 「第一試合! 『黒金屋』代表、エリカ・フェルナンド! 対するは、前年度準優勝『蒼き鷲』代表、雷鳴のハンス!!」
現れたのは、全身から電光を散らす二刀流の剣士だった。 「悪いな、お嬢ちゃん。俺の速度についてこれた奴は――」
「……ねえ、ハンスさん。早く終わらせて、あの大根、食べていいかな?」 エリカが『大根丸』を静かに構える。 彼女の命中率は、相変わらず「2」だった。だが、彼女の瞳には今、「狙った獲物を逃さない(食欲的な)」殺気が宿っていた。




