第1節:闇の蛇:少女の首にかけられた賞金(前半)
「……ううっ、もう振れないよ……。お腹がいっぱいになると、眠たくなるね、リノ」
エリカは『大根丸』の先端を地面に突き立て、その柄に寄りかかって大きくあくびをした。足元には、彼女の「空振り」が巻き起こした瓦礫の山に埋もれ、白目を剥いて気絶している刺客が転がっている。
「エリカさん、寝ている場合じゃありません! この人たちの懐から、変なものが出てきました!」
リノが器用に精霊の光で照らし出したのは、一枚の汚れた羊皮紙だった。ミラがそれをひったくるように奪い取り、目を細めて内容を確認する。
「……これ、あたしたちが狙われた理由じゃないよ。正確には、『あんた』が狙われた理由だ」 ミラが差し出した紙には、エリカの顔——それも、今よりずっと幼い頃の、しかし今と同じように「何かを食べようとしている」瞬間の肖像画が描かれていた。
その下には、冷酷な文字でこう記されている。 『標的:エリカ・フェルナンド。生死を問わず。報奨金:金貨五百枚。……依頼主:帝国北門監獄、元管理官』
「き、金貨五百枚!? 大根が何本買えるか計算もできないくらいの額だぞ!」 マーカスが驚きで裏返った声を出す。エリカも「金貨五百枚」という単語に反応し、眠気を吹き飛ばして身を乗り出した。
「えっ! 私の首って、そんなに価値があるの? ……それ、自分で自分をギルドに届けたら、借金返せるかな?」 「エリカさん! 冗談でもそんなこと言わないでください、笑えません!」 リノが悲鳴を上げる。
だが、ミラが注目したのは金額ではなく、その「依頼主」の名だった。 「帝国北門監獄の元管理官……。あそこは、十数年前に『ある重要囚人の脱走』の責任を取らされて更迭されたはずの男がいた場所だよ」
ミラはエリカの顔をじっと見つめた。 「……あんた、自分の親のこと、どこまで知ってる?」
「え? 村の裏山に生えてた大きな切り株の下で、村長さんに拾われたって聞いてるけど……。だから、私のお父さんは切り株じゃないかなって」 「……そんなわけないでしょ」
その時、気絶していたはずの刺客の一人が、血反吐を吐きながら薄く目を開けた。 「……カカッ……。無駄だ……。我ら『影の蛇』に狙われた以上……お前の血筋が……帝国の玉座を……揺るがす……」
「えっ? ぎょ、ぎょくざ? ……美味しいの、それ?」 エリカの問いかけに、刺客は答えなかった。彼は最後の力を振り絞り、口の中に仕込んでいた自白拒否用の毒薬を噛み砕いたのだ。




