黄金のスープ:空腹の果てに見つけた幸せ(前半)
聖騎士アルトリウスが去り、野次馬たちが夕食のために散っていった後の広場。そこには、激戦(と転倒)によってクレーターだらけになった地面と、へとへとに疲れ果てた四人の姿があった。
「……あーあ。借金は減ったけど、今日のご飯代まで削れちゃったね」 マーカスが空になった財布を振りながら、瓦礫の上に腰を下ろす。
「……何を言ってるんですか、マーカスさん。私たちには、エリカさんが命がけで(半分以上粉砕しながら)守り抜いた『戦利品』があるじゃないですか」
リノが指差したのは、エリカの背嚢から転がり出た、数本の大根と、粉々になった「大根の欠片」たちだった。 エリカは、ボロボロの『大根丸』を杖代わりに立ち上がると、近くの噴水の水で大根を丁寧に洗い始めた。
「……ザックさんに、お鍋借りてくる。……今日は、これでお腹いっぱいにするんだ」
三十分後。 ザックの工房の前には、使い古された大鍋から、信じられないほど食欲をそそる香りが漂っていた。具材は大根と、ミラが「お詫び」としてどこからか調達してきた(出所は聞かない約束の)干し肉、そしてザックが秘蔵していた謎の香辛料だけだ。
「ガハハ! 俺の工房を壊した奴に飯を振る舞うたぁ、俺も焼きが回ったぜ!」 ザックが大きな木べらで鍋をかき混ぜる。 黄金色に透き通ったスープの中で、厚切りにされた大根が、エリカの魔力の余波を吸い込んだかのように不思議な輝きを放っていた。
「……できた。……食べていい? もう、いいよね?」 エリカの瞳は、どんな宝石よりも輝いていた。震える手で木皿を受け取り、熱々のスープを口に運ぶ。
「……っ!!」
口の中で、大根がほどけるように溶けた。 オークの泥にまみれ、エリカの空振りに耐え、聖騎士の圧力にも屈しなかったその野菜は、今、至高の甘みとなって彼女の五臓六腑に染み渡っていく。
「おいひい……。リノ、生きててよかった……」 「そうですね、エリカさん。……あんなに酷い目に遭ったのに、この一杯で許せてしまうのが不思議です」
マーカスもミラも、無言でスープを啜っていた。 帝都の華やかなレストランで出される高価な料理ではない。だが、崩れかけの工房の前で、星空を見上げながら飲むこのスープには、契約という名の「絆」の味が混ざっていた。
しかし、その温かな空気の中、ミラがふとスプーンを止めて暗闇の路地を見つめた。 「……ねえ。さっきから、誰かあたしたちを見てる」
ミラの言葉に、エリカは最後の一切れの大根を飲み込み、ゆっくりと『大根丸』の柄に手をかけた。




