白銀の監視者:大根を食う女、王都に現る(前半)
「……よし、これで納品完了! あー、働いた後の大根は最高だったね!」
帝都北門、冒険者ギルドの受付窓口。エリカは泥だらけの背嚢をドサリと置き、満面の笑みを浮かべた。背嚢の中から出てきたのは、オークから奪還した大根の数々と——エリカが空振りで粉砕してしまった「大根の微塵切り(泥和え)」の山だった。
「……フェルナンドさん。依頼書には『無傷での奪還』とありましたが、この……半分以上が叩き潰されたような白い物体は何ですか?」 受付嬢が引きつった笑顔で、書類と「かつて大根だったもの」を交互に見る。
「えっ、あ、それは……オークが暴れたから、かな?」 「エリカさん、目が泳いでますよ! 嘘が下手すぎます!」 リノが横から必死にフォローを入れるが、ギルド内にはすでに「例の壊し屋がまたやった」という空気が漂い始めていた。
その時、ギルドの喧騒を切り裂くように、整然とした拍車の音が響いた。 入り口から現れたのは、煤けた冒険者たちとは一線を画す、汚れ一つない白銀の甲冑を纏った騎士。帝都聖騎士団・第三隊長、アルトリウス・ヴァレンタイン。
「……ギルドマスター・オズワルドはいるか。街道を破壊し、国の備蓄食糧を『つまみ食い』した不届き者の報告を受けに来た」
アルトリウスの涼やかな、しかし氷のように鋭い声が響く。彼の視線は、真っ先にエリカの背中に背負われた『大根丸』へと注がれた。
「(……あの巨大な重魔鋼。普通の人間なら背負うだけで背骨が砕けるはず。……やはり、彼女が報告の破壊者か)」
エリカは、自分の背負っている剣が『大根丸』という脱力系の名前であることを悟られまいと、不自然に胸を張った。 「あ、あの! つまみ食いじゃなくて、毒味です! オークが毒を塗ってたら大変だと思って!」
「……ほう。生の大根をまるごと一本完食して、毒味か。随分と命がけの騎士道精神だな、娘」 アルトリウスが数歩近づく。その圧力に、マーカスは音もなくミラの後ろに隠れた。
「お前がエリカ・フェルナンドか。……我が聖騎士団では、街道に開いた『クレーター』の修理費を計算中だ。ついては、お前にその支払能力があるか、あるいはその『力』にそれだけの価値があるか、私が直接見極めさせてもらう」
アルトリウスが白手袋をはめた手で、腰の細剣に触れた。 「外へ出ろ。……模擬戦だ。もし私に一太刀でも浴びせられたら、今回の破壊行為の半分は『公務による致し方ない損壊』として処理してやろう」
「半分……! 借金が減るの!?」 エリカの瞳が、大根を食べた時以上に激しく燃え上がった。




