大根の騎士:オークよ、その野菜を離せ(後半)
「……これで、おしまいだぁぁぁぁ!!」
エリカの放った五度目の一閃。それは、もはや剣筋と呼べるものではなかった。『大根丸』の重魔鋼がエリカの怒りに呼応し、膨大な質量を伴った「壁」となって横方向にスライドしたのだ。
――ズガァァァァァァァン!!!
命中率「3」の奇跡か。剣先はオークリーダーの鼻先をこれまた数ミリで空振った。しかし、発生した衝撃波と真空の渦が、オークの小隊全員をまとめて巻き込み、街道脇の崖下へと文字通り「掃除」した。 オークたちは何が起きたのか理解する暇もなく、ただの「肉の塊」となって視界から消え去ったのである。
静寂が戻った街道。 そこには、直径十メートルにわたって石畳が剥ぎ取られ、更地になった「かつての道」があった。
「……勝った。……大根、守ったよ……」 エリカは、膝をつき、肩で息をしながら、目の前に転がっている一本の大根を震える手で拾い上げた。 それは、オークが食べ残し、奇跡的にエリカの破壊からも逃れた、泥だらけだが立派な「極上大根」だった。
「……エリカさん。やりましたね。……でも、後ろを見てください」 リノが力なく指差した先には、彼女たちが通ってきた街道が無惨なクレーターの列に変わっていた。
「……なあ、エリカ。これ、オークを倒した手柄より、道の修理代の方が高くなるんじゃねえか?」 マーカスが冷や汗を流しながら呟く。ミラも隣で、返り血ではなく「泥と大根の破片」を浴びた姿で呆然としていた。
「いいの。……この大根が、無事なら……」 エリカは大根を服の袖で丁寧に拭き、ガブリと丸かじりした。 「……んぐっ。……おいひい……。リノ、これ、すごく甘いよ!」
「エリカさん、生で食べないでください! お腹壊しますよ! それに、それはギルドへの『納品物』……ああっ、もう食べてる! 完食してる!?」
夕闇が迫る中、エリカは一本の大根を幸せそうに胃袋に収め、残りの大根(の残骸)を背嚢に詰め込んだ。 これが彼女にとっての、真の「初手柄」となった。
しかし、その様子を遠くの木陰から見つめる、鋭い視線があった。 白銀の鎧に身を包んだ、帝国の聖騎士団の一人。
「……報告にあった通りの、無軌道な破壊工作員か。……それとも、あれが予言の『聖剣を振り回す大食い』なのか?」
新たなる波乱の火種が、大根の香りと共に帝都へと運ばれていく。




