大根の騎士:オークよ、その野菜を離せ(前半)
帝都から続く街道は、かつてない悲壮感に包まれていた。 道端には、襲撃の際にひっくり返された荷馬車が横たわり、そして何より――エリカにとっての「宝物」である、白く輝くはずの大根たちが、無惨に踏みつけられ、泥にまみれていた。
「……見て、リノ。……大根が、泣いてる」 「エリカさん、あれはただの泥汚れです。……でも、確かに酷い惨状ですね」
エリカの背中で『大根丸』が「ゴォォ……」と不吉な低鳴りを発した。 一行の前方、街道を塞ぐように陣取っているのは、十数体のオークの群れだった。筋骨隆々の醜い豚の面をした魔物たちは、奪った大根をこれ見よがしにバリバリと音を立てて貪っている。
「ブギィィッ! ブガッ(人間だ、肉が来たぞ)!」
一際巨大な、リーダー格のオークが、かじりかけの大根を地面に投げ捨てた。 その瞬間、エリカの中で何かが「プツン」と弾けた。
「……今。……今、投げたね? まだ食べられるところがあったのに、投げたよね?」 「エリカさん、スイッチが入りました! マーカスさん、ミラさん、下がって!」 リノが叫ぶのと同時に、エリカは背中の『大根丸』を力任せに引き抜いた。
ドォォォン!! 抜剣の衝撃波だけで、周囲の枯れ葉が舞い上がり、街道の石畳に亀裂が入る。
「……返しなさい。その大根も、みんなのご飯も、全部……返せぇぇぇぇ!」
ドンッ!! エリカの体が地を蹴り、爆発的な加速でオークの集団へと突っ込む。 彼女が狙ったのは、先ほど大根を捨てたリーダーの眉間。命中率「3」に跳ね上がった(自称)魂の一撃。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
――一回目、空振り。 オークの首筋を数ミリかすめた『大根丸』は、そのまま背後の巨木に激突。 ボガァァァン!! 樹齢百年の樫の木が、まるでマッチ棒のように木っ端微塵に砕け散り、その破片がオークたちの頭上に降り注ぐ。
「ブギィッ!?(何だ今の破壊音は!?)」 「外れた……っ。でも、次、次で絶対に……!」
エリカの「空振り」は、もはやただのミスではない。『大根丸』の重量と魔力が生み出す真空の刃が、オークたちの陣形を物理的に切り刻んでいく。
「おいおい……! アイツ、当てる気ねえだろ! 敵の周りの地面を全部消し飛ばして、逃げ場をなくしてやがるぞ!」 ミラが戦慄しながら叫ぶ。
二回目、三回目、四回目。 エリカが剣を振るうたびに、街道に巨大なクレーターが並び、オークたちは攻撃を受けたわけでもないのに、凄まじい風圧だけで宙を舞い、パニックに陥っていった。
そして訪れた、五度目の正直。 エリカは大根への想いを全て腕に込め、地面ごとオークを薙ぎ払わんと横一文字に振り抜いた。




