究極の業物:名付け親は空腹の少女(後半)
「……決めたよ。この子の名前は――」
エリカは、重厚な銀黒色の剣体を愛おしそうに撫でた。ザックは固唾を飲み、リノは祈るように手を組み、ミラは「どうせ『聖剣エリカ』とかでしょ」と鼻を鳴らした。
「――『晩ごはんの守護者』!」
…………。 工房を、氷河の底のような静寂が支配した。
「…………は?」 ザックの口から、半ばまで吸い込んだ煙草の煙が力なく漏れた。 「小娘、今、なんて言った? 俺の耳がおかしくなけりゃ、『晩ごはん』とか聞こえたんだが」
「うん! これがあれば、どんなに硬い魔物も倒して食べられるし、悪い泥棒からも食材を守れるでしょ? だから、ディナー・ディフェンダー。……あ、でもちょっと長いから、普段は**『大根丸』**って呼ぶね!」
ドサリ、とリノが膝をついた。 「……エリカさん。せめて、せめて『蒼銀の月影』とか『滅魔の剛剣』とか、そういう……後から英雄譚に載っても恥ずかしくない名前にしませんか……?」
「いいの! 私にぴったりだもん!」 エリカは『大根丸(仮)』を軽々と背中に背負った。八十キロの質量が背中で弾むたび、工房の床にミシリとヒビが入る。
ザックは頭を抱え、しばらく唸っていたが、やがて自棄気味に笑い出した。 「ガハハ! いいだろう! 伝説の重魔鋼を使って『大根丸』か! 史上最高に贅沢で、史上最低に締まらねえ名前だ! だがな……その剣を振るう時は、その『食い意地』を全て威力に変えてみせろ!」
その時、工房の扉が勢いよく開いた。 飛び込んできたのは、息を切らせたマーカスだった。
「大変だ! ギルドから緊急招集がかかった! 帝都近郊の街道に、はぐれオークの小隊が現れたらしい。……しかも、ただのオークじゃない。……食糧庫を襲って、帝都に運び込まれるはずだった『冬越し用の極上大根』を全部奪っていきやがったんだ!」
エリカの周囲の空気が、一瞬で絶対零度まで冷え込んだ。 彼女の背負った『大根丸』が、共鳴するように「キィィィィィン」と鋭い駆動音を上げる。
「……私の。私たちの、冬のご飯を……?」
エリカの瞳から、光が消えた。 「いくよ、リノ、マーカスさん、ミラ。……初仕事、オーク討伐。……あと、大根の奪還」
「……あ、あの、エリカさん? 殺気が、殺気が『魔王』のそれになってます! 待ってください、扉を開ける前にまずは落ち着いて——ぎゃあああ! 扉がぁぁぁ!!」
エリカが(普通に)開けようとした工房の扉は、彼女の殺気混じりの力によって、紙切れのように引きちぎられて宙を舞った。 新生・落ちこぼれパーティーの、実質的な初陣の鐘が鳴り響いた。




