究極の業物:名付け親は空腹の少女(前半)
帝都の路地裏に、かつてない衝撃音が響き渡っていた。 カンッ、という高い音ではない。ドォン、ドォン、と大槌が地面を叩きつけるような重低音。ザックの工房『黒金屋』では、持ち帰られた『重魔鋼』の鋳造が佳境を迎えていた。
「おい、小娘! そこに立ってろ! 今、お前の『魔力』をこの鋼に馴染ませる!」
上半身裸になり、全身から蒸気を立ち昇らせたザックが叫ぶ。 エリカは言われるがままに、真っ赤に熱せられた鋼の塊に手をかざした。リノを通じて流し込まれる青白い魔力が、鋼の奥深くへと吸い込まれていく。その瞬間、鈍い銀色だった金属が、エリカの瞳と同じ蒼い輝きを帯び始めた。
「よし……これでこの剣は、お前が握っている間だけ『世界の理』から外れるほど硬くなる。……だがな、エリカ。これを持つってことは、もう『当てられませんでした』じゃ済まされねえぞ」
数時間後。 炉の火が落とされ、静寂が戻った工房に、一本の「剣」が横たわっていた。
それは剣と呼ぶにはあまりに無骨で、重厚だった。 刀身は通常の長剣の倍ほども厚く、反りはほとんどない。銀黒色の表面には、エリカの魔力の残滓が流体のような紋様となって浮き出ている。 ミラが興味本位で持ち上げようとしたが、「――っ!? っっぬ、ぬあああぁぁ!」と顔を真っ赤にして踏ん張っても、床から一センチも浮かなかった。
「……無理。これ、鉄の塊じゃない。山の一部でも削り取ってきたの?」 「ガハハ! 重魔鋼の原石を丸ごと一塊、贅沢に叩き込んだからな。重量は優に八十キロを超える。……さあ、エリカ。お前の相棒だ。取ってみな」
エリカは、ゴクリと唾を飲み込んで、その柄を握った。 不思議な感覚だった。指が触れた瞬間、あんなに重そうだった金属が、まるで自分の身体の一部……延長された腕であるかのように、しっくりと馴染んだのだ。
「……軽い。すごく、持ちやすいよ、ザックさん!」 エリカがヒュン、と軽く素振りをすると、それだけで工房の空気が真空状態になり、離れた場所にあった水桶がパシャリと割れた。
「……エリカさん、お願いですからここでは本気で振らないでくださいね。借金が『帝都買収』レベルになりますから」 リノが青ざめた顔で釘を刺す。
「さあ、仕上げだ。製作者の俺には銘を打つ権利があるが、こいつは特別だ。……持ち主であるお前が名を決めろ。どんな高貴な名でも構わんぜ」
ザックが期待を込めて見守る中、エリカは剣をじっと見つめ、鼻をひくつかせた。 彼女の脳裏には、鉱山で夢見た「真っ白な大根」と、村の皆で囲む「温かい鍋」の光景が浮かんでいた。
「……決めたよ。この子の名前は――」




