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空振り美食道〜大根一本で魔王と勇者を飼い慣らすまで〜  作者: 向陽葵
【第1部:契約の始まり】

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20/90

氷の巨人と雪合戦:投げたのは岩でした(後半)

「当たれぇぇぇぇぇ!!」


 エリカが放った十発目——それは、もはや「雪合戦」と呼ぶにはあまりに凶悪な、重さ百キロを超える巨大な氷の塊だった。  当然のように、その一撃はイエティの頭上を大きく逸れ、背後の鍾乳石を粉砕した。


「……あ、また外れた」 「エリカさん、もういいです! 逃げましょう、天井が——」


 リノが叫びかけたその瞬間、奇跡……あるいは、彼女の「命中率2」が引き起こす因果の捻じれが顕現した。  粉砕された鍾乳石の巨大な破片が、跳ね返った衝撃波に押し出され、ドミノ倒しのように次々と天井の氷柱を叩き落としたのだ。


 その中の一本。槍のように鋭く、巨大な氷の柱が、逃げ惑うイエティの「氷核」へ向かって垂直に自由落下した。


 ――グシャァァァァッ!!


「……ギ、ギィィ……ッ!?」  狙っても不可能なほどの精密さで、氷柱がイエティの胸部を貫通した。  巨獣は自慢の氷核を粉砕され、霧のような魔力の粒子を撒き散らしながら、音を立てて雪の上に崩れ落ちた。


「……え、倒しちゃった? 私、すごーい!」 「あんたが凄いのは、狙いを外して環境そのものを味方につけるその『悪運』だよ……」  ミラが額を押さえて溜息をつく。


 だが、騒ぎはそれで終わらなかった。イエティの巨体が倒れ込んだ際、その衝撃で坑道の最深部を覆っていた分厚い永久氷壁が、派手な音を立てて剥落したのだ。


 土煙と氷の霧が晴れた奥に、それはあった。  周囲の冷気を全て吸い取っているかのような、鈍い銀黒色の輝きを放つ鉱石の塊。  触れるだけで手が凍りつきそうなほど冷たく、それでいて心臓の鼓動のような微かな震動を繰り返している。


「これだ……間違いないよ。ザックの親父が言ってた『重魔鋼ヘヴィ・マナ・スチール』だ!」  ミラが目を輝かせて駆け寄る。


「……エリカ。これ、すごく重いんだよ? 熟練の採掘師が十人がかりで運ぶような代物なんだけど……」 「……任せて。これを持って帰れば、ザックさんが美味しいご飯を奢ってくれるんだよね?」


 エリカは無造作に袖を捲り、伝説の金属を両手でガシリと掴んだ。  ミシリ、と彼女の足元が沈み込む。質量は見た目の十倍。だが、エリカの「ERROR」級の筋力は、それをただの「大きな漬物石」程度にしか認識していなかった。


「……んっ、しょ……! よーし、運んじゃうよ!」  伝説の金属を肩に担ぎ、鼻歌まじりに歩き出すエリカ。その後ろ姿は、もはや冒険者というよりは、大物を仕留めた熊に近い。


「……ねえ、リノちゃん。俺たちの役割って、もう『応援』だけで良くないかな」 「……マーカスさん、たまには良いこと言いますね」


 一行は、崩落寸前の鉱山を背に(エリカが支柱を一本持って帰ろうとするのを必死に止めながら)、帝都へと意気揚々と引き返していった。

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