氷の巨人と雪合戦:投げたのは岩でした(前半)
「おい小娘! 見物してねえで何とかしてくれ! 俺の華麗な剣技は、今……絶賛、冬眠中なんだぁぁ!」
マーカスがイエティの巨大な足に踏み潰される寸前、エリカは足元に転がっていた、重さ五十キロはあろうかという氷の塊をひっ掴んだ。 極寒で岩のように固まったそれは、エリカの握力によってミシミシと嫌な音を立てる。
「マーカスさん、伏せてて! ……えいっ!」
狙いは、イエティの眉間。 だが、放たれた氷の塊は、エリカの「命中率2」という呪われた指先を離れた瞬間、物理法則をあざ笑うかのように急激に右へとカーブを描いた。
スカッ……。
「……あ」 氷の塊はイエティの三メートル横を通り過ぎ、坑道を支えていた古い木製の支柱に直撃。 バキィィィィィィィン!! 凄まじい破壊音と共に支柱が消滅し、天井から大量の土砂が降り注ぐ。
「エリカさん! 魔物じゃなくて建物と戦ってどうするんですか! こっちに来ます、来ちゃいます!」 リノの悲鳴。 イエティは自分を狙って外れた「一撃の威力」に本能的な恐怖を感じたのか、逆に激昂し、氷の棍棒を頭上で猛然と振り回した。
「……ミラ、あいつのどこを狙えばいいの!?」 「あいつの胸のあたり! 毛が薄くなって、青く光ってる『氷核』があるでしょ! あそこを壊せば止まる!」
ミラが指差す先、巨獣の胸部には確かに、魔力を蓄えた水晶のような核が埋まっていた。 だが、エリカの「投擲」が当たる確率は、宝くじの一等に当選するよりも低い。
「……わかった。当てるのが無理なら、……いっぱい投げればいいんだよね!」
エリカの思考が、ついに「数で攻める」という物量作戦に到達した。 彼女は周囲に散らばる岩、氷、折れた支柱、果てはマーカスが落とした予備の鞘まで、手当たり次第に両手で掴み始めた。
「リノ、魔力を貸して! ……いくよ、エリカ特製……超高速雪合戦!!」
シュッ、シュバッ、ドゴォォォン!!
エリカの両腕が残像となるほどの速度で回転し、拾い上げた瓦礫が次々と射出される。 一発目:天井。 二発目:床。 三発目:マーカスの足元(「ぎゃっ!?」)。 四発目:ミラの鼻先数センチ(「殺す気か!?」)。
狙いはことごとく外れている。しかし、周囲の壁や床に次々と着弾する「質量兵器」の破片が、四方八方からイエティに襲いかかった。




