白銀の迷宮:寒さと空腹は最強の敵(後半)
キィィィィィィィィ!! 天井から降り注ぐ数百の氷翼蝙蝠。その翼は剃刀のように鋭く、高速で旋回するたびにエリカの防寒外套の毛を削り取っていく。
「寒い……動くと、風が冷たい……。もう、まとめて止まってて!」
エリカは震える足を強引に踏み出した。あまりの冷気に、彼女の吐息は空中で即座に氷の粒へと変わる。命中率「2」の絶望的な精度は、極寒による震えでさらに歪んでいた。
「はぁぁぁっ! えいっ! とおっ!」
——一回目、空振り。 ——二回目、空振り。 ——三回目、自分の外套の裾を殴って空振り。 ——四回目、驚いて逃げる蝙蝠を追いかけ、そのまま空中で一回転して空振り。
「エリカさん! 一匹も当たっていません! 逆に風圧で敵が舞い上がって、収集がつかなくなっています!」 「わかってる、わかってるよリノ! 次は、当てる……当てるんだから!」
五度目。エリカは狙いを一点、蝙蝠の群れ……ではなく、その背後にある巨大な「氷柱」が並ぶ坑道の壁面に定めた。当てる努力を放棄し、得意の「破壊」による広域攻撃へと思考を切り替えたのだ。
「これなら、当たるぅぅぅぅ!」
ドォォォォォォォォン!!
エリカの右拳が、数百年かけて凍りついた永久氷壁を直撃した。 命中率「2」ゆえに、狙った一点からは僅かに逸れた。しかし、放たれた衝撃波は氷の壁を粉砕し、数千、数万の「氷の礫」となって坑道内に炸裂した。
キィ!? キギィィィ! 逃げ場を失った氷翼蝙蝠たちは、エリカが作り出した弾丸の雨によって次々と撃ち落とされ、床に積み重なっていく。
「……すごっ。ねえ、あんた。今の、わざと壁を狙ったの?」 ミラが腰を抜かしながら尋ねる。 「……ううん。……蝙蝠を狙ったんだけど、壁が当たってくれたの」 「……それは『当たった』って言わないと思うけど」
エリカは、床に転がった凍った蝙蝠の一匹を拾い上げ、真剣な表情でリノに見せた。 「リノ、これ。……角砂糖をまぶせば、食べられないかな?」 「エリカさん、さっきから食欲のベクトルが狂いすぎています! それはただの凍った魔物です!」
その時、坑道の奥から「うわあああぁぁぁ!」という、聞き覚えのある情けない絶叫が反響してきた。
「……マーカスさん! 生きてたんだ!」 「待って、エリカ。あの声……何かから逃げてきてるよ」
ミラの指摘通り、暗闇の先から、お尻に火がついたような勢い(実際は滑っているだけ)でマーカスが滑走してきた。その後ろには、全長三メートルを超える、真っ白な毛皮に覆われた『氷河の雪男』が、怒り狂って棍棒を振り回しながら迫っていた。
「助けてくれぇぇ! 軽く挨拶しただけなのに、地果てまで追いかけてくるんだぁぁ!」 「……マーカスさん、あいつ『挨拶』じゃなくて『喧嘩』を売った顔ですよ!」




