酔いどれの金槌:ザック・アイアンハンマーの審美眼(前半)
冒険者ギルド『アイアンホール』の酒場は、戦いと略奪、あるいは幸運な生還を祝う荒くれ者たちの熱気で溢れかえっていた。 その片隅で、エリカは死んだ魚のような目で、ギルドが提供する「最低ランクの冒険者飯(お粥と硬いパン)」を見つめていた。
「……リノ。私、あんなに頑張ったのに、手元に残ったのがこの銅貨一枚だけなんて……」 「エリカさん、自業自得です。下水道を半壊させた修理費を、オズワルドさんが報酬から差し引いてくれただけでも慈悲というものですよ」 リノは、粘液で汚れた自分の袖を魔法で必死に浄化しながら、冷たく言い放った。
その時、三人の座るテーブルの隣から、地響きのような笑い声が聞こえてきた。 「ガハハハハ! 見ろよ、このボロ布を! これが帝都の『期待の新人』か? スライム相手に服を溶かされるたぁ、見上げた根性だぜ!」
声の主は、身長こそエリカの腰ほどしかないが、横幅は二倍近くある筋骨隆々の男だった。燃えるような赤髭を複雑に編み込み、背中には身の丈ほどもある巨大な戦斧を背負っている。ドワーフの鍛冶師、ザック・アイアンハンマーである。
「おい、小娘。その腰にぶら下げてる鉄の棒を見せてみな。死臭より酷い『武器の悲鳴』が聞こえてくるぜ」
エリカが言われるがままに、先ほどの戦闘でボロボロになった貸与品の鉄剣を差し出すと、ザックはそれを無造作にひったくり、隻眼を細めて凝視した。
「……ほう。こいつは驚いた。刃毀れじゃねえ……。刀身の芯が、内側からの衝撃に耐えきれずに『砕けて』やがる。普通、スライムを切ってこんな壊れ方はしねえ。お前、こいつを振り回して何を叩いた?」
「え、えっと……壁とか、床とか、空気とか……」 「……空気だと?」
ザックの鋭い眼光がエリカの手を射抜いた。泥に汚れ、ささくれだったその掌。だが、そこにはどんな熟練の戦士よりも深く、重い「力の奔流」の残滓が刻まれている。 ドワーフ特有の、金属と対話する審美眼が、エリカの奥底に眠る「怪物」を捉えた。
「ガハハ! 面白い! 腕っぷしだけは一人前だが、道具を使いこなす知恵は赤ん坊以下か!」 ザックは飲み干したジョッキを机に叩きつけると、エリカを指差した。
「よし、決めたぜ。そのナマクラじゃ、次の依頼で自分の指ごと吹き飛ばすのがオチだ。俺が、お前に相応しい『壊れない武器』を作ってやる!」




