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第6話「俺」

「冷めないうちに食べちゃいましょうか」

 母が運んでくる朝食。焼きたての鮭と玉子焼き、小松菜のおひたし。そこに菜っ葉のみそ汁がついて朝から豪華な食卓だと思う。

 頂きますと手を合わせ、湯気を立てるみそ汁を一口含むと懐かしい味が口腔一杯に広がって思わず涙腺が弛んだ。

「おいしい……っ」

 絞り出すような歓喜の声。箸を持つ手が震えて、挟んだ甘い玉子焼きを落としそうになりながらも口に運んでお袋の味を咀嚼する。

「おいしい、おいしい……っ! 母さんのごはん……おいしい……っ」

「……? う、うん。ママの料理はいつだって美味しい」

 喉を通過し身体に染みこんでくる懐かしい味わいに気持ちが追いつかなくて肉体という器から溢れ出しそうだ。幸せに押し広げられた感情は出口を求めて目から溢れ出し、ボロボロと流れ出ていく。

「か、奏汰くん……どうしたの?」

 優しい母の声に思わずしゃくりあげる。大丈夫だよ平気だよと返したい言葉も溢れ出す涙に咳止められて嗚咽ばかりになる。

「俺、おれ……幸せだった……こんなにっ、当たり前に幸せだったのに……っ」

 これが夢だとしても俺はふたりの家族に伝えたかった言葉を届けるために泣きじゃくりながらも音を紡ぐ。

「ごめん……母さん、姉さんごめん。ごめんなさい……俺は、幸せでした……っ」

 感謝と懺悔が綯い交ぜになった感情のままに三十三年分の思いを言葉にする。

「幸せすぎて、こんな日常すら……手が届かなくなる日がくるなんて思ってなくて……っ」

 俺は馬鹿だ。普遍の日々がこんなにも尊いだなんて失うまで気付かなかった。母さんと姉さんがいるこの家が何よりも大好きで、誰よりも優しいなんて。

「……奏汰くん」

「ちょ、ちょっと……奏汰……どうしちゃったのよ……」

 二人が生きているだけでこんなにも嬉しい。あの日の事件は幸せにあぐらを掻いた俺が自分勝手にふたりを傷つけた罰だったんだ。

 血の繋がりなんて関係無い。俺は、確かに愛されていたんだ……家族に。

「だから……ありがとう。昨日は……ごめんなさい……っ」

 感謝と謝罪。シンプルだが俺が伝えたい気持ちがすべてこもっている。十八歳の誕生日に真実を教えてくれた母を糾弾して、フォローに入った姉をも責め立てた。

 すべて俺が悪かったんだ。だから、もう俺の前からいなくならないでほしい。

「母さんも言い出すタイミングが適切じゃなかったのよ……ごめんなさい」

「あ、あたしも……つい熱くなって、酷いことを言ったから……ごめん奏汰」

 こうして食卓を囲めるだけで幸せだよとつけくわえて、俺は改めて誕生日の出来事を謝ることができた。心にしがみ付いていた未練が消えていく。

「さて、仲直りもできたし……今日は予定通りにアウトレットモールに行きましょ」

「お姉ちゃんもさーんせいっ!」

「凛花は買いすぎないようにね? とくに秋冬は買い込むんだから……」

「うぐ……っ! だ、大丈夫よ断捨離するし……っ!」

 ……アウトレットモールに買い物? 郊外にできた、大型施設だ。そこはいつものドライブコースの延長線上にあるから……ふたりの予定は変わっていない!?

 俺が家族を失う原因になったのがこの日のドライブだ。ふたりは、豪雨に巻き込まれて……そこで、あの……事故に遭遇してしまう!!


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