第33話「このたびヒロインに選ばれるのは……」
チクタクと秒針の音がする。真っ暗な自室、ベッドの上で寝そべった俺は九月の夜風を窓から招き入れながら考え事をしていた。
要は眠れないってことだ。あの日に転生してから、惨劇を回避してから、学校が始まってから色んなコトがあった。
その中でも強烈に焼き点いて離れないのが夕陽の中で両手を拡げる天使マナの姿。ファンタジーを拗らせた少女の戯れ言のような言葉がずっとリフレインしている。
未来から来た、という天使。そして同じく未来から戻ってきた俺。天使マナは何ものだろう? 少女は自身を概念だと名乗った。
概念。想いの集合体。俺が強く願ったから生まれてきた存在? それとも……天使マナが生まれてきたから俺はいまこの場所で思いに耽ることができるんだろうか?
この世界の俺たちはなんだろう? 常軌を逸した存在か常識を外れた存在か。卵が先か鶏が先かのような堂々巡りだが、天使の言葉がすべて本当なら……俺は彼女に感謝すべきなんだろう。
俺がこの世界に戻ってこられたから、あの日の崩落事故から家族を救えた。でも、俺の行動に春萌初苺からドナーを奪ってしまったんだと思う。
……春萌。病弱で学校を休みがちな彼女は思い心臓病らしい。
入学式のときに見つけた日傘の少女。真っ白で美しい横顔は真っ直ぐに散りゆく桜を見上げていた。一年生、二年生とクラスは別だったけど日傘の少女は時折俺の目を奪い、あの頃の俺は春萌さんへ特別な感情を向けていたのかもしれない。
言葉数が少なくて。表情変化も乏しくて。でも、意外と感情を表に出しているのだと分かったとき、俺は彼女のことがもう一度気になってしまった。
姉さんを救ったことで彼女の道を断ってしまったこと、そして……同級生の女の子へ対する淡い片思いのような感情を。
……こんなこと、今さら。春萌さんのこの先の未来は分からない。俺が奪ってしまった光を再び彼女が見つけられるのかすら分からない。
だけど俺は、母さんと姉さんを救いたかった。例えそれが春萌初苺の命を犠牲にすることだと理解していても、俺は大切な家族を救おうとしただろう。
それだけでよかった。その先の人生が続くなんて思ってもいなかった。だからいま、未来だった過去から戻ってきた俺は新しい過去で何をしたいんだろう?
当たり前の日々がとてつもなく幸せで、これ以上の未来なんて何ひとつ思い描いてもいなかった。孤独死する瞬間さえも誰かを求めていた俺は、これからどうしたい?
誰かを救うことができたのなら、今度は誰かを守りたい。誰かを幸せにしたい。
天使の言葉が蘇ってくる。さぁ、恋をしよう――
それは、新たな人生の指標なのだろうか? それとも運命?
俺は誰かを守りたい。その誰かが誰なのかなんて、とっくに決まっているのかもしれない……。
思い出せ。あの日から今日までの日々を。
そして気付け。人生を添い遂げる彼女が手の届く場所にいると。
俺は、選ぶ。たったひとりの恋人を!
『このたびヒロインに選ばれたのは×××です』と!!




