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第31話「瓶詰め少女」

 午後の日射し。間延びしたチャイム。昼休みの賑わいの中にひっそりと佇む俺と、春萌さん。ま

「先週お休みだったけど体調はどう?」

「うん……大丈夫……熱が出ただけだから……」

 まだまだ日射しは強いけど給水塔の日陰はひんやりしてる。拡げたレジャーシートに腰を下ろし、俺は購買のパンを、春萌さんは家から持ってきたコッペパンを食べる。いつもと変わらない学校生活の中で、楽しみだと思えるランチタイム。

 がぶりと齧りつく惣菜パン。今日はマスタードとケチャップが食欲をそそるウインナーロールが二本とウスターソースがたっぷり染みこんだメンチカツサンド。俺のメニューは購買だから色々変わるけど彼女のお弁当はいつもコッペパンとジャムだ。

 小さな瓶に入ったジャムを金色のスプーンですくってパンに乗せる、細い指先に小振りなスプーンが良く似合う。真っ赤な宝石のように透き通ったジャム。

「キレイな色だね」

「うん……今日は、いちごジャム」

「いつも違う?」

「……うん。日替わり」

 いつもふたつみっつ小瓶が並んでいたけど日替わりだったとは。小さな瓶にはラベルがなくて家で詰め替えてきてるのかな、それとも手作り……なのかな。

 彼女のジャムをまじまじ見ているとコンポートされた果肉がごろっとはいっている。なんだろう、こうやって見ていると美味しそうに見えてくるよな。

「日替わりか。じゃあ、明日のジャムはなんなのか予想しておくよ」

「っ……うん。楽しみに……していて」

 小さく、彼女は笑う。春萌さんは感情が表に出ないっていうか、無表情なんだと思っていたけど最近は表情の変化が伝わってくるようになった。

 ムッとしたり、シュンと悲しんだり、目を細めて笑ってくれたり……明日のジャムを言い当てたら春萌さんは喜んでくれるかな?

 明日もこうして彼女とランチを楽しめるかな? この優しくて穏やかな時間がいつまでも続けばいいのに、と祈りながら俺はパンをかじる。


 白い月のようなこの横顔が、いつまでも笑顔でいてくれますように。


 ……九月とはいえ、日の傾きを感じられるようになってきた。秋になるのは意外と早いのかもしれない。午後の授業は眠気を噛み殺していたけど、六時間目が終わる頃あたりからの記憶がない。

 気付けば机に突っ伏していて、掃除で居残った生徒たちもいなかった。夕陽が差し込むオレンジ色の教室にブラスバンド部のチューニングが響いている。

 今日も、穏やかな日常だった。ボーッと霞んだ視界のまま微睡んでいる。廊下の奥から、パタパタと足音が駆け寄ってくる。

 こんなふうに走ってくるのは天使マナ、かな?

 オレンジ色の空間に溶け込んだ少女の姿が神々しい。

「ったく、神様かよ……」

 教室の真ん中で止まる天使。意味の分からない俺の言葉への返事を考えているのだろうか?

「う~ん。ボクは神様じゃないかも」

「完全否定はしないのか」

 ククッと苦笑する俺を見て天使マナはつられて笑う。

「君を迎えに来たんだ」

「迎え? 天国にでも連れていくつもりか?」

 夕陽の中で無邪気に笑う天使。スカートのプリーツをひるがえして俺に近づいた彼女は楽しそうに両手で俺を引っ張っていく。

「こらこら、どこに連れていく気だ」

「空! 君に見て欲しい景色がある」

 そら? ああ、空か。引っ張られるまま階段を進んでいく。放課後の屋上で、俺に空を見せたいなんて面白い奴だな……と天使マナについていく。


「ここだよ!」


 一面の夕陽がフェンスを貫く。長く伸びた影が編み目のタイルのように広がっている。山のてっぺんから見る夕陽は、こんなにも近くて巨大なのかと不思議だった。

 大きな太陽。一歩ずつ歩いていく天使。振り返る少女。逆光に笑う……顔。


「きれいだよね!」


 一際明るい天使の声が広がって響いていく。広大な夕陽を背に受けた少女は翼を拡げるように両手を拡げた。


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