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第27話「イレギュラー」

 朝。学生の朝は早い。とも言い切れず、朝食を味わう暇も無くスポーツサイクルで心臓破りの坂を駆け上がる俺がいる。

 珍しく寝起きが悪いからと目覚まし時計のアラームを切って「あと五分……」と定番をやらかしたらそのままぐっすり眠ってしまったなんて間抜けすぎる。

 今日に限って母さんも昨夜の仕事が立て込んでいたようで声を掛けてもらえなかったのが敗因。若い身体に朝食抜きはキッツいぞ……と思いつつどうにか予鈴と同時に正門へとゴールインした。

「ゼーハー……」

 本鈴まで時間は残り少ないが呼吸を整えつつシューズロッカーから上履きを出して履き替える。よし、今日もラブレターは入っていないようだ。

 男なら一度は憧れたよな? 知らない女生徒からの愛の手紙にさ……! なんて思いながら二階にある教室へと向かう。

 本鈴前の教室の中は賑わっていて、俺が遅れてやってきたことに誰も何も言わない。そりゃそうだ、今も昔も変わらずここでは空気みたいな生徒Aだもんな。

 そういうしている間に本鈴が鳴り、廊下の奥から教師が歩いてくる。んだけど、その姿に俺は面食らってしまった。

「……!?」

 姉さんだ。驚くのも無理はない。姉さんはクラス担任じゃないからだ。もしかして、とうとう教室を間違うというドジをやらかしてしまうのか? ああ、ヤバいな……学校の中では才色兼備の弓弦先生というポジションだったのに……!

「みんなーおはようございますっ。パッと見……全員いるわね」

 明るい教師の声に生徒たちはドッと笑う。男子も女子も「点呼サボっちゃ駄目だよー」と当たり前のようにクラス担任? のような弓弦教諭を迎え入れている。

(あれ……?)

 教室の中で俺だけが驚いていた。だって、昨日まで違う先生だったじゃないか。姉がクラス担任……? そんな話は聞いてない。もしかして二学期から交代したとか……だとしたら昨日までいた担任教師はなんだったんだ? え? ええ!?

 一人だけ混乱している俺の狼狽にも目もくれず姉さん=クラス担任は日直から生徒全員登校しているという旨を受け取っていた。

「さてとっ、昨日のHRで告知したとおりに転校生がやってきます! 男子も女子も期待していいぞォ~! はいっ、転校生の登場~~!!」

 教室中がドアを注視する。姉の性分か、こんなに派手な迎え入れをされたら転校生とやらも怯んでしまうだろ……と思いつつ、俺もドアを見つめると現れた転校生の姿に驚いてしまった。

「え……ええ!?」

 セーラー服の少女だ。白い半袖から伸びる白い腕。胸元には黄色いリボンタイが揺れている。その姿はどう見ても……昨日出逢ったリンゴの少女。

(同級生……?)

 どう見てもそんなふうには見えなかった。中等部か小等部の高学年がいいところだ。自分のことを「ボク」と呼ぶ明るい少女は背伸びしつつ黒板に名前らしきものを書く。

天使(あまつか)マナですっ! よろしくねっ!」

 元気いっぱいに挨拶する少女。クラス担任である姉も「はい拍手~」と教師を賑やかに盛り上げている。昨日名前を聞きそびれた少女と再開したどころか同級生として編入してきたその姿に俺の頭の中では疑問符がいくつも浮かび上がっていた。

「天使さん。一番後ろの空いている座席にどうぞ。近いうちに席替えもするからね」

「はいっ! 分かりました弓弦せんせっ!」

 少女は背中に背負ったキャメル色のスクールバッグを担ぎ直して生徒たちの間をこちらに向かって歩いてくる。

 おあつらえ向きとばかりに俺の席の隣が彼女の座席になるようだ。教卓の姉はしどろもどろする俺の姿にニヤニヤ笑っている。俺の学生生活に姉と少女の二人が突然入り込んできたのだから驚いても仕方がないと思うんだが……。

 セーラー服の少女は俺の席で足を止めて花が咲くような大輪の笑顔をニコッと浮かべた。

「よろしくねっ! 奏汰くんっ!」

 ……? 俺の名前、なんで知ってるんだ? 俺、昨日教えたっけ……? さらなる疑問が浮かんでは消えないまま満員電車のようにぎゅうぎゅう詰めになっていた。


 新学期二日目。予想だにしなかった展開が突然訪れてしまった――


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