第12話「夢の続き」
「ぅぇぇ~……ん」
泣きじゃくる声が聞こえる。まるで子どもだ。そりゃ泣きたくもなる、せっかく助けられたと思った家族をまた失うなん……て……?
「ふぇぇ~……ん」
間の抜けた子どものような泣き声が近づいてくる。薄暗くなったリビングに入ってくるふたつの影。
「凜ちゃん、奏汰くんもいるわよ。ほらほら泣き止んでお姉ちゃんでしょ……」
母の声だ。ということは、もうひとつの影は姉さん。そうか、よかった……二人とも無事だったんだ。
膝から崩れ落ちていた俺は気が弛んでしまってテーブルへと突っ伏した。嬉しさに似た安堵感が体温のように広がっていく。
「うっうっ……カミナリだけは駄目なのぉぉ……うっうぇぇ……っ」
「そうね怖かったわね。奏汰くんも大丈夫だった? 部屋にいたみたいだけど……」
心配してくれる母の声に涙腺が弛みまくる。こんな暗がりでは声だけが頼りだと名前を呼んでみたが……俺の声も震えまくった鳴き声だった。
「か、奏汰くんまで……!? あ、ぁぁ……どうしようかしら……」
狼狽する母の声に姉さんも俺も大丈夫だと鼻を啜る。どうやら、姉さんはシャワーの真っ最中に停電したらしく落雷の音もあって酷く怯えてしまったらしい。
雷が苦手なことを知っている母さんは風呂場まで姉さんを見に行ったが、二度目の落雷にビックリした姉さんが立ち上がった拍子に足を滑らせて尻餅をついてしまったらしい。
娘に肩を貸してリビングに戻ってきたら今度は息子が縮こまって泣きじゃくっているんだから、母さんの心労は相当なものだろう。
「奏汰くんは怪我してない? あぁぁ……やだ、もう……子ども二人に泣かれたら私まで……ぐすっ……」
「ま、ママぁ! ママまで泣いちゃヤだぁぁ~! わだじもっ、がなだぐんもっだいじょぶだから、ぁぁぁ……ぅぅぅ」
俺の様子を見ていない姉さんだが大丈夫なのは本当のことなので口出ししないでおこう。
「本当に? 奏汰くんも大丈夫?」
母さんの手が差し伸べられて背中に触れる。母さんの体温が伝わってきて、まるで魔法のように強張った身体がほぐれていく……。
「お、俺も……大丈夫。驚いてしまっただけなんだ……っ。この様子だと姉さんも大丈夫そうだ……ほら、泣くだけの体力はあるみたいだからね。母さんは?」
「私も大丈夫よ。停電してからすぐに凛花を迎えにいったから無事よ」
そうか。よかった……母さんも姉さんもここにいる。俺の前から勝手に消えてったりはしないんだ。
「あだじもっあだじもだいじょうぶだがらぁぁ~……! ママもっ奏汰も泣かないでぇぇ~……」
「あはは……泣いてないってば……」
膝をついた姉さんに手を伸ばして濡れ髪にふれると、リビングのライトがパッと灯る。どうやら一時的な停電だったようだ。
明るいリビングに、大事な家族が揃っている。俺たちは改めて顔を見合わせてお互いの泣きっ面に笑い合った。
「ほらほら、二人とも座り込むならソファでね……ほら、もう立って」
ラグに座り込んでしまった俺たちを母さんが困った顔で引っ張り上げる。いくつになっても手の掛かる子どもなんだからと笑ってくれる笑顔が、溜め込んだ不安を一掃するぐらい素敵で眩しくて、心の底から安堵した。
あなたたちをまた失ったら、なんて……考えただけでも発狂しそうなんだ。喪ってから生きてきた年数の分だけこの気持ちは重たい。だから、言葉にする。
「もういなくならないでくれよ」
深い溜息。肺に吸い込んだ澱んだ空気を全部吐き捨てるような長い溜息。
「……ふふっ。奏汰くんったら一気に老け込んだみたい」
そりゃそうだよ、いまの俺は母さんよりも年上だからね。なんて冗談めかして笑ってやると目を丸くして驚く母さんが目を細めて言葉を返す。
「あらあら。いつの間にか大きくなっちゃったのね」
俺は、この家に生まれて幸せだった。例え母さんと姉さんとの血が繋がっていなくても、ここは……俺の大事な居場所だったんだ。




