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ペステ:革命は内側から始まる  作者: fm344
第一章 アファロス:古びた経済の都
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5節 盗み聞き

「――もしもーし。誰かいませーんかー?」


 バーの入り口を何回もノックしたけど返事がなかった。


《営業時間はまだ終わってないはず…》

 なのになぜ、誰も出ない?


 風の返事すら返ってこず、通りすがる人たちからの不審な視線も増えたため、僕はノックするのをやめた。


 しかし、


 時間が経っても誰も来ず、手持ち無沙汰になったので、バーの周りを軽く調査してみた。


 それにより得られたのは以下の情報:

 

 ――窓が一つもない。


 これが最初に気づいたことだった。


 振り返ってみると、先ほどバーに来た時も窓やカーテンを見た覚えはない。その周りにもそれらしい物がなかった。


 ――バーには少なくとも4つの部屋がある。


 これに気づくのには少しかかった。


 前回の記憶や、周りの路地を歩いて確認した形から予想すれば、客席や便所の他にも、カウンターの裏に一部屋、その部屋の隣にもう一部屋あるはずだ。

 そしてバーである以上、カウンターの後ろは倉庫だと予想できる。


 ――裏口がある。


 実は、バーの両隣には2つの建物がある。確か、左は工具屋で、右は何かの事務所。とにかく、バーとその左の工具屋の間に小さな道がある。


 その道を進んでいくと、バーの裏口に行き着いた。


 少し気になって、そのドアを開けてみたら、ある部屋に繋がった。

 部屋は非常に狭く、ほうきなどの掃除用具だけがたくさん置いてあった。そして、その部屋の左端に木製の扉があった。


 それに耳を近づけたら、

 ――ごくかすかに、誰かの声が聞こえた。


 要するにバーは今無人ではないのだ。誰かが中で、隣の部屋で会話をしている。

 そして、その部屋の防音性は高い。


《これはどうしたことか…》

 こんなことを知ったところで、結局何もできない。


 今バーに入るのは良くないだろうし、明日また来るっていう選択肢も――


「だから、それはお前の勝手な予測だろ? まだ、ロメロが関係してるって断言するには早い。」


 と、隣の部屋から確かに聞こえた。


「ロメロの話…」

 と、ぶつぶつ言いながら、僕は無意識に扉に近づいた。


 見えない何かに引っ張られているかのように、僕は耳を押し当てた。


「そもそも十分な証拠がないとこっちも動けないんだ。」

 太く、聞くからに強そうな声が言う。


「だから、ロメロの名前が出たってのも十分な証拠ですよ!」と、聞いたことのある声が、少し高い調子で言った。


 これは、あの黒髪の店員の声だとわかった。


「ラウル、お前は勝手に想像しすぎじゃないのか?」と、強いほうが言う。


「いや、間違ってない…ジュリオは何かを隠してるはずなんだ。」


 さっきの荒れた口調が少し落ち着いた。


「それはそうだったとしても、あの三人の邪魔がある限り、調査は厳しい。

実際に、いつ帰ってきてもおかしくないからな。」


「三人…」と僕は言葉にならないほど小さな声でつぶやいた。


《あの体がデカい三人のことなのか…》



 この続きの会話は聞いてもあまり理解できる内容ではなかった。

 そもそもジュリオって人が誰なのかわからない時点で僕の頭の中で情報が繋がらない。


 そうした考え事の途中、突然、天井から音がし始めた。

 敏感な僕はすぐにそれに気づき、上を向いた。


《ネズミ?》


 そう、柱同士をつなぐ木の板の上に、ネズミの影が見えた。

 僕は気にせず、耳を再び扉にくっつけた。


 ――ネズミなら問題ない。

 そう思ったことが一番の失敗だった。


 もう少しよく聞こえるように、顔のポジションを直した時、何かが鼻に落ちるのを感じた。


「毛…!?」

 

 黒い毛の塊が僕の鼻についたのだった。


《マズいッ!!》


 僕はすぐにそれを掴み、投げ捨てた。扉からも離れようとしたが、もうすでに遅かった。


 ――鼻が痺れる感覚が体中を走る。


 この場を最悪の事態に変えることのできる何かが起こることに早く気づき、それを対処しようと、両手で鼻を覆った。


「アチッ!!」と、僕の特殊なくしゃみがわずかだが響いた。


 大丈夫だと思ったが、案の定、誰かが気づくのには十分な音量だった。


「何だ今の? ――聞いたか、ラウル?」


「え?… 何を?」


 僕は「やべぇ」と言語化する間もなく、立ち上がった。そして、外につながる唯一の扉へと向かって走った。


《間に合えッッ!!》


 その一心で僕は飛び出し、建物を出た。

 ドアを閉める余裕がなかったため、恐らく誰かが聞き耳を立てたことはバレたと思う。



※※※



 どうにかして道路に出た僕は、荒い呼吸を整えながら、人けの少ない所へ向かった。

 

 今考えてみたら、無断で裏口から入った時点で僕は犯罪に近いことをしたのかも知れない。



「痛ぇ…」と、ぼやきながら自分の足を確かめた。


 特に傷はなく、軽く捻ってしまっただけのようだ。



「バーに行くのはもう、明日でいいや…」


 ベレー帽についてしまった草を払って落とし、それを被ってから、疲れをため息に乗せて吐き出した。

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