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ペステ:革命は内側から始まる  作者: fm344
第一章 アファロス:古びた経済の都
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4節 親切な人たち

 太陽はこれまでにないほど輝き、時計は午後3時半を指していた。

 午前中と比べて極端と言えるほど、通りを歩く人はほとんどいなくなった。



※※※



「ぐぅ~~」


 あのバーから出て間もなく、空腹が僕を襲ってきた。


《そういえば、到着してから何も食べていないか…》

 なので、僕は食べ物を探しに出かけた。


 自分がひどい金欠状態であることを踏まえ、そこら辺の店で、できるだけ安いものを買うことにした。



「ソーセージ入りのパン、一つください。」


 数分間探した後、近くにあった小さな屋台を選んだ。


「はいよー!!」

 変なバンダナを頭に巻いたおじさんは、案外気持ちのいい返事をしてくれた。


 そしてすぐに注文を作り始め、僕はその様子をただ眺めた。


 彼はその作業の最中、僕を見ずに、


「――君、もしかして外から来たのかい?」

 と、彼はいきなり核心を突く質問をしてきた。


「な、なぜそれが…?」


「ハハ、見れば一目で分かるよ。アファロスに住む人の目は、死ぬほど見て来たからな。

もちろん、細かい事情までは分からねぇけどな。」


 それには少し安心した。

 やはり、僕は気付かない内に、怪しさ丸出しだったのかも知れない。


「まあ、でも嬉しいよ。誰かが遠くから来てくれるなんて。」


 彼は顔についた汗を腕で拭いた。


「最近は増税とか色々で、この街での商売は厳しくなっているからなぁ…」


「増税?」


「ああ。君が知っているかは分からんが、この街はほとんど壁の外の工場のおかげで成り立っている。工場はいわゆる、街の商業の柱だ。」


 僕はうなずいた。


「それがなあ、最近国からの政策で、他の街への関税が上昇している。以前はあった安定性が崩れてきて、その影響が意外なところで現れるんだ。脱走者の増加もそれが原因だろう」と、彼はかなり円滑に話した。


 その途中、彼は何か、他に言いたそうなことがあるかのように僕を見た。しかし、言うのはやめたようだった。


「とにかく、君みたいな、よその人が来てくれるのはありがたいことだよ。」


《一般市民も大変なんだな。》

 単純な思考の持ち主はそう思った。


 同時に、少し――

 いや、結構意地悪な質問が浮かんだ。


 ――もし、僕が脱走者だったとしても、喜びますか?


  ……。


「何を考えてんだか…」


 自分のバカな質問に対して言った。


 おじさんは、「コイツ大丈夫か?」とでも言うかのように僕を見たが、何も言わず作業を続けた。


 その手の動きは、まるでプロのような、見てて安心するものだった。



「まいどあり!!」


 彼は熱々のパンを僕に渡し、僕はそれを受け取った。


 サイズは想像していたのよりは大きく、見るからに美味そうだった。



「ありがとよ、おっさん!!」

 

 ちょっと離れてから、僕は感謝と謝罪を込めて言った。彼はただ手を振った。


 結局、おっちゃんの誠意で、ちょっとおまけをしてもらった。


 財布に残るお金は25(カラ)と5(デド)

 少ないが、1週間は問題なく過ごせるだろう。


「――と言っても、いずれ困るよな…」



※※※



 座る場所を探していると、ある公園の側で、ポスターで埋め尽くされた壁画を見つけた。


《ここにもあるのか…》


 こういう壁画は、「報道塀」と呼ばれ、ほとんどの街に一つか二つぐらいある。

 こんな所で見つけるのは驚きだ。


 ポスターの主な内容は、地元の事件から国全体を巻き込むほどの政治的な話題までと、実に幅が広い。

 僕の目に入ったのは、

『カルディアでの大量殺人』

『東部全域での増税』

 などの重大情報。でも、だからって特別興味を惹かれたわけではなかった。


 さらに歩いて、小さな広場にたどり着いた。背景には、街の中心である「メリク湖」が見えた。

 僕はベンチに座り、パンを食べ始めた。



 曇った空の下、僕は腹を満たす。

 風が耳元を優しく撫でていく。

 そして側には数人の子どもたちが遊んでいる。


 どう考えても穏やかなこの状況を、僕の心は楽しませてはくれないようだ。


 なぜなら――

 未だにあの少年、バーへの道中に見たあの子の目が頭から離れないからだ。


《なぜ何もしなかったんだ…?》

 

 ここに住む普通の人と違って、僕は警官たちが脱走者に何をするか知っている。子どもの頃、そういう場面を何度も見てきたからだ。


 どこから逃げたかにもよるが、基本的には脱走者は元の街に戻されることはない。

 街の外で何かしらの罰を受け、灰だけが戻される。自衛隊に入れられ、無理矢理戦争に連れて行かれるとも聞いたことはある。


 子どもの場合は片目を失った状態で村に返される。『何も見てない』の証しになるらしい。

 中には自殺する子もいれば、犯罪者になる子もいる。


 こんな話は、知っていたとしても誰も口にしない。それを話そうとする者は黙らされる。


 最悪なのは、この街の人々が脱走者を軽蔑していることだ。

 もし誰かが僕が脱走者だと知ったら、迷わず通報するだろう。「社会のためだ」と思いながら。


 どんな事情があったって、きっと同じ目に遭う。間違いなく、彼らはクズ…


「――と、言うのもこの辺にしておこう。」

 

 実際、この街の全員がそうであるわけではない。きっと、事実を教えたら見方が変わる人だって一定数いるはずだ。


 結局、僕の目的はこういう現状を変えること。 

 こうした事実を皆に伝えることだ。


「そのためにはまず、ロメロを見つける。」

 きっと彼なら、この状況を変える手助けをしてくれるはずだ。


 ――と、考え事をしてる最中、


「おおい!! そこのヤツ! 俺らといっしょに頭球(とうきゅ)やんねぇ!?」


 と、側で遊んでいた子どもたちが誘ってきた。


 誘ってくれた事自体は嬉しいが...


「悪いが、俺は“そこのヤツ”じゃねぇ。僕の名前はアレハンドロだ。

というか、この顔は君たちと頭球したいように見えるか?」


 僕は思ったことを躊躇なく返した。子供相手ならあまり言葉を選ぶ必要がないから。


「だって、結構前にパン食べ終わったのに、ずっと下を向いていて、つまんなそうだったもん。」

 

 もう一人の子が言った。


《なんと子供らしい発想か。》

 おかげで心が少し穏やかになった気がした。

 

「それはすまなかったな。でも、こんな僕にもやるべき事があるんだよ。」


《そう、こういう子供たちのためにも…》


 僕は口を拭き、ベンチに置いた荷物を持って立ち上がった。


「やるべきこと?」


「そうだ。」


「靴についた犬のうんちを掃除するとか?」


「そうそう、犬のうんちを…え?」


 僕は恐る恐る、靴の裏を見た。

 途端に僕は絶望した。


 隣にいた子どもたちは僕の無様さを見て、一斉に笑い出した。

 

 僕はとりあえず靴を地面に擦って、心の涙を拭いた。



※※※



 石畳を思いっきり踏み、その小さな段差につまずきながらも、僕は歩き出した。


《向かう先は「bar de bares(バーの中のバー)」》


 今回こそ、大事な情報を掴んでみせる。




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