3節 バーの中のバー
店内はそれほど広くなかった。
カウンターには椅子が4脚並び、天井にはオイルランプが吊るされていた。
また、テーブルは3つで、それぞれに椅子が3脚ずつ置かれていた。
店内にはホコリひとつ落ちておらず、むしろ、壁もテーブルも椅子も…すべてが完璧に清掃されていた。
間違いなく、これまで僕が見てきた中で一番上品なバーだ。「Bar de Bares(バーの中のバー)」という名前がぴったりだ。
奥のテーブルには、少し威圧感のある3人の男が座っていた。
1人はハゲ――いや、禿頭と言ったほうがいいだろうか。見るからに明るい性格の持ち主だった。
その隣は右頬に傷跡を持ち、静かな笑みを浮かべていた不気味な男。そしてそのまた隣に、右目に包帯を巻いている、あまり浮かない顔をしていた男がいた。
彼らの背丈は少なくとも3.5コド(およそ180センチ)
――いや、それ以上はありそうだった。
細かいところまでは見えなかったが、賭け事でもしていたのだろう。
また、カウンターには年配の男性が座っていた。顔はよく見えなかったが、60歳前後だろう。まあ、体だけを見るに、もっと若そうに見える。
彼はカウンターの左端に座っていて、かなり酒を飲んでいるようだった。
「立っていても仕方ないか…」
と、つぶやき、自分は右端の椅子に座った。
店員はグラスを拭きながら、僕の来店というよりは、むしろ存在自体にやっと気づいた。
彼の髪の毛は、染めたのかと思うくらい見たことのない真っ黒だった。
「ご注文は?」と彼は丁寧に尋ねた。
《何も注文しないのは行儀悪いな…》
そう思い、何かしら頼むことにした。
「一番うまいやつ、一杯お願いします。」
いつもより低く、無駄に渋い声で頼んだ。
しかし、自分の財布にあまりお金がないことに気づき、
「――なるべく安いやつで」と、小声で加えた。
「はいよ。」と、店員は答えてくれた。
奥の男たちは時々、僕をちらりと見たが、すぐに会話を続けた。何処か怪しい気がした。
「こちらがご注文です」
店員はグラスたっぷりに入った酒をくれた。
美味そうな見た目にいい香り。これは美味いに違いない…
《――いや、まっず!!?》
声に出しそうな勢いで僕の心は叫んだ。
少し咳をして、僕は口を拭いた。
酒ってこんなに不味いとは知らなかった。
店員はちらっとこっちを見て、再び作業に戻った。なぜかため息のような音が聞こえた。
それに、左に座ってる年寄りからも、強い威圧感のようなものを感じた。
《なんだこの人たちは…》
このバーにい続けることがちょっと怖くなったので、早く本題に入ることにした。
「ゴホン…」
僕は軽く咳をした。
「――店員さんよ。この店の店主に、会わせてくれませんか?」
酒を一口飲んだ後、僕は少しドヤ顔で言った。
店員は振り返り、僕を数秒眺めた。
そして少し間を空けてから、
「申し訳ないが…店長は今、不在です。」ときっぱり答えた。
「むしろ、結構前からこのバーに来ていません。自分もいつ来るかが気になるくらいです。」
彼は畳み掛けるように言ってきた。
《マジかよ…》
いないという可能性を考慮しなかった僕の完全なるミスだ。
「――そうですかぁ…」
《これではロメロと会えなくなってしまうじゃねえか…》
別に急いでいる訳ではないが、時間がかかればかかるほど、ここへの道中のような事件が増える。
それは本当に避けたい…
《だったら、非常手段に――》
「――じゃあ、ロメロって人は…」
…………。
《あれ?》
突然、バーの中の音が全てなくなった――と言えるくらい、静かになったのだ。
《なんだこの不穏な空気…?》
暗い霧のような、険しい空気が場を満たした。
《やはり、ロメロの名を出すのは危険だったか…》
「…なんか、いけないこと言いました?」
僕は警戒しながら、でも普通のトーンで、すまなそうに言った。
店員はやっと固まっていた瞳と口を動かし、
「い、いいえ、ぼーっとしてただけです…」
と、作り笑顔で言った。
同時に、奥の男達も話を続けたようだ。
店員は目を他の方向に向けながら、
「そのぉ…ロメロって方は知らないです。」
と、あまりにも怪しい口調で言った。
――嘘。
考えるより前に、本能的に分かった。
彼は僕に嘘をついたのだ。
でも、彼にも事情があるようだし、あまり干渉しないことにした。
なので、
「そうですか…」とだけ言い、僕は立ち上がった。
そして払うものだけ払って、僕は店を出ることにした。
「またのご来店を」の一言もなく、僕は損した気分で店を出た。
※※※
「結局、手ぶらかよぉ…」
バーからある程度離れた所で、僕は弱音を吐いた。
――いや、吐くしかなかったのだ。
だって、どこから探せばいいのか分からない。
ロメロや店主の位置情報も何も知らない。
「ヒントのかけらでも欲しいところだ…」
途方に暮れながら、僕は太陽の下を歩き続けた。




