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ペステ:革命は内側から始まる  作者: fm344
第一章 アファロス:古びた経済の都
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2節 恐るべし「バーの中のバー」

 店内はそれほど広くなかった。カウンターには椅子が4脚、天井にはオイルランプ。テーブルは3つ、それぞれに椅子が3脚ずつ。


 だが、店内にはホコリひとつ落ちていなかった。むしろ、壁もテーブルも椅子も...すべてが完璧に清掃されていた。


 間違いなく、これまで僕が見てきた中で一番上品なバーだ。「Bar de Bares(バーの中のバー)」という名前がぴったりだ。


 奥のテーブルには、少し威圧感のある3人の男が座っていた。1人はハゲ、もう1人は右頬に傷跡、そして最後の1人は片目に包帯を巻いていた。


 彼らの背丈は少なくとも180センチ以上はありそうだった(僕よりずっと大きい)。


 おそらく、賭け事(?)をしていたようだ。



 カウンターには年配の男性も座っていた。顔はよく見えなかったが、60歳前後だろう。まあ、体だけを見るに、もっと若そうに見える。

 彼はカウンターの左端に座っていて、かなり酒を飲んでいるようだった。



「立っていても仕方ないか...」

とつぶやき、自分は右端の椅子に座った。



 店員はグラスを拭きながら、僕の来店というよりは、むしろ存在自体にやっと気づいた。


 彼の髪の毛は、染めたのかって思うくらい見たことのない真っ黒だった。



「ご注文は?」と彼は丁寧に尋ねた。



ー注文せずにいきなり質問するのは行儀悪いか...

と思い、何かしら頼むことにした。



「一番うまいやつ、一杯お願いします。」

と、無駄にカッコつけた声で頼んだ。



 しかし、自分にお金があまりないことに気づき、



「なるべく安いやつで」

と、小声で加えた。



「はいよ。」と、店員は答えてくれた。



 奥の男たちは時々、僕をちらりと見たが、すぐに会話を続けた。何処か怪しい気がした。



「こちらが注文になります。」と、店員はグラスたっぷりに入った酒をくれた。



 美味そうと思って飲んでみたら、


ーまっず!!?


と、声に出しそうな勢いで僕の心は叫んだ。酒ってこんなに不味いとは知らなかった。


 それに、左のおじさんからもなんかものすごい威圧感のようなものを感じた。


 このバーにい続けることがちょっと怖くなったので、なるべく早く本題に入ることにした。



「店員さんよ。この店の店主に、会わせてくれませんか?」と、酒を一口飲んだあと、ドヤ顔で言った。


 店員は間を空けてから、



「申し訳ないですが...店長は今、不在です。」ときっぱり答えた。



「むしろ、結構前からこのバーに来ていません。自分もいつ来るかが気になるくらいです。」と、畳み掛けるように言ってきた。



ーまじかよ。

いないという可能性を考慮しなかった僕の完全なミスだ。



「そうですかぁ...っじゃあ、ロメロさんって方は..」


...............。


ーあれ?

 

 なぜか店員が黙った。

 男たちも急に静かになった。



ーなんだこの不穏な空気...



「なんか、いけないこと言いました?」と、僕はちょっとすまない顔で尋ねた。



「い、いいえ、ぼーっとしてただけです。」店員はやっと言葉を発した。



 奥の男達も話を続けた。



 店員は目を他の方向に向けながら、

「そのぉ...ロメロって方は存じておりません。」

と言った。




ー嘘。

考える前に、本能的に分かった。彼は僕に嘘をついた。


 でも、彼にも事情がありそうだし、あまり干渉しないことにした。


なので、


「そうですか...」とだけ言い、立ち上がった。


 払うものだけ払って、僕は店を出ることにした。



ー結局、手ぶらかよぉ..。

そう弱音を吐いた。いや、吐くしかなかったのだ。


 だって、どこから探せばいいのか分からない。

 ロメロとバーの店主の位置情報はなんも知らない。ちょっとしたヒントのかけらすら...



※※※



 太陽はこれまでにないほど輝いていた。時計は午後3時半を指し、通りにはもうあまり人がいなかった。



「ぐぅ゙~~」

突然、空腹が襲ってきた。



 そういえば、到着してから何も食べていない。

 僕は食べ物を探しに歩いた。


 そこら辺の店で、できるだけ安いものを買うことにした。


 僕はひどい金欠状態だと改めて気づいた。



「ソーセージ入りのパン、一つください。」

と、ある小さな屋台を経営しているおじさんに頼んだ。



「はいよー!!」と、変なバンダナを頭に巻いた彼は、案外気持ちのいい返事をしてくれた。



 彼は注文を作っている最中、僕を見ずに、


「君、もしかして外から来たのかい?」

と、予想もできないほどの的を当てた質問をしてきた。



「な、なぜそれが…?」



「見れば一目で分かるよ。アファロスに住む人の目は、死ぬほど見て来たからな。細かい事情までは分からないけどね。」



 それには少し安心した。



「まあ、でも嬉しいよ。誰かが遠くから来てくれるなんて。」と、彼は僕の返事を待たずに続けた。



「最近は増税とか色々で、この街での商売は、厳しくなっているからなぁ..」



「増税?」



「ああ。君が知っているかは分からんが、この街はほとんど壁の外の工場のおかげで成り立っている。この街の商業の柱だ。」



 僕はうなずいた。



「それがなあ、最近国からの政策で、他の街への関税が上昇している。昔まであった安定性が崩れてきてるんだ。脱走者の増加もそれが原因だろう。」と、かなり円滑に話した。



 その途中、彼は何か、他に言いたそうなことがあるかのように僕を見た。しかし、言うのはやめたようだった。



「とにかく、君みたいな、よその人が来てくれるのはありがたいことだよ。」



ー大変なんだな。

と、単純な思考の持ち主は考えた。



 同時に、少しー

 嫌、結構意地悪な質問が浮かんだ。


ーもし、僕が脱走者だったとしても、喜びますか?


....。



「何を考えてんだか...」と、自分のバカな質問に対して言った。


 おじさんは、「コイツ大丈夫か?」とでも言うかのように僕を見た。



 熱々のパンを僕に渡し、僕はそれを受け取った。


 見るからに美味そうだった。




「ありがとよ、おっさん!!」

と、ちょっと離れてから、僕は感謝と謝罪を込めて言った。彼はただ手を振った。



 結局、おっちゃんの誠意で、ちょっとおまけをしてもらった。

 財布に残るお金は25(カラ)と5(デド)


 少ないが、1週間は問題なく過ごせるだろう。



ーと言っても、いずれ困るよな....



※※※



 座れる場所を探していると、ポスターで埋め尽くされた壁画を見つけた。


ーここにもあるのか。

こういう壁画は、ほとんどの街に一つか二つぐらいある。こんな所にもあるのは驚きだ。



 ポスターの主な内容は、地元の事件から国全体を巻き込むほどの政治的な話題までと幅広い。

 僕の目に入ったのは、

『カルディアでの大量殺人』

『東部全域での増税』

などの重大情報。でも、だからって特別興味を惹かれたわけではなかった。



 さらに歩いて、小さな広場にたどり着いた。遠くには街の中心、メリク湖が見えた。僕はベンチに座り、パンを食べ始めた。



 曇った空の下、僕は腹を満たす。

 風も僕の耳元で優しく癒しの言葉を囁く。

 そして側には数人の子どもたちが遊んでいる。



 どう考えても穏やかなこの状況を、僕の心は楽しませてはくれないようだ。


なぜならー

未だにあの少年、バーへの道中に見たあの子の目が頭から離れないからだ。



ーなぜ何もできなかったのか...。

 

 警官たちが脱走者に何をするか、少なくとも僕は知っている。子どもの頃、そういう場面を何度も見たからだ。


 どこから逃げたかにもよるが、基本的には脱走者は元の街に戻されることはない。街の外で何かしらの罰を受け、灰だけが戻される。戦争に連れて行かれるとも聞いたことはある。


 子どもの場合は片目を失った状態で村に返される。「何も見てない」の証しになるらしい。中には自殺する子もいれば、犯罪者になる子もいる。


こんな話は、知っていたとしても誰も口にしない。それを話そうとする者は黙らされる。


最悪なのは、この街の人々が脱走者を軽蔑していることだ。もし誰かが僕が脱走者だと知ったら、迷わず通報するだろう。「社会のためだ」と思いながら。


 どんな事情があったって、きっと同じ目に遭う。間違いなく、彼らはクズ...


ーと、言うのもここまでにしよう。

 

 なぜならこの街の市民の一部がそうでない事を知っているからだ。


 結局、僕の目的はこういう現状を変えること。 

 こうした事実を皆に伝えることだ。



「まずはロメロを探す。」

きっと彼なら、この状況を変える手助けをしてくれるはずだ。



 と、考え事をしてる最中


「そこのヤツ!俺らといっしょに頭球(とうきゅ)やんねえ!?」と、側で遊んでいた子どもたちが誘ってきた。


 誘ってくれた事自体は嬉しいが...


「そもそも俺の名前は"そこのヤツ"じゃねぇ。俺の名前はアレハンドロだ!!覚えとけ!!てか、俺が君たちと頭球したいように見えた?!」と、個人的に思ったことを躊躇なく返した。子供相手ならあまり言葉を選ぶ必要がないから。


「だって、結構前にパン食べ終わったのに、ずっと下を向いていて、つまんなそうだったもん。」と、もう一人の子が言った。



 なんと子供らしい発想か。

 おかげで心が少し穏やかになった気がした。

 


「それはすまなかったな。でも、こんな僕にもやるべき事があるんだよ。」と言って、荷物を持って立ち上がった。


「やるべきこと?」


「そうだ。」


「靴についた犬のうんちを掃除するとか?」


「そうそう、犬のうんちを......え?」


 僕は恐る恐る、靴の裏を見た。

 途端に僕は絶望した。


ー何回これを繰り返せば気が済むんだよぉ...


 子どもたちは、僕の不様さを見て笑い出した。

 

 僕は取り敢えず靴を地面に擦って場を後にした。


※※※


 石畳を思いっきり踏み、僕は歩き出した。その微妙な段差に躓きながらも。



 向かう先は「bar de bares(バーの中のバー)」。

 今回こそ、大事な情報を掴んでみせる。





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