1節 元経済大都市アファロス
この物語は、城壁に囲まれた都市アファロスで過ごす人々の記録です。
正義は揺らぎ、階級は運命を縛り、影はいつも足元に潜んでいます。
ここに登場するのは、英雄ではありません。
ただ、生きようとし、守ろうとし、選ぼうとするだけの人々です。
彼らの小さな選択が、やがて街の内側で静かに火を灯す。
革命とは、いつだって外からではなく――
内側から始まるものだから。
どうか、その行く末を見届けてください。
世界のどこかにある忘れられた国で、一人の若者が旅を始める。
彼の目的はー
多くの人々の人生を変えること。
この腐った国を内側から破壊すること。
※※※
奇妙な夢から目覚めた。何の夢だったかは思い出せない。
体中が汗でびっしょりだった。なぜだろう?
ゆっくりと目を開けた。太陽の光は見えなかった。まだ「ロミル橋」の下、小さなテントの中にいることを思い出した。
「ーもう三週間か.....」
自分の帽子を見て、ため息ついた。
故郷、友、家族の元を離れてから、もうほぼ三週間が経つことに気づいた。この国を変えると誓ってからもずいぶん経つ。
けど、正直まだ何もできちゃいない。"あれ"以来、心のもやもやを消すこともまだできていない。
ー皆元気にしてるといいな。
と、結構身勝手なことを言って、自分を励ます。考えすぎたってどこにも行かないことぐらい僕にだって分かるから。
手提げバッグを取り出し、中身を確認した。すべて無事だった。
僕は立ち上がり、相棒であるベレー帽をかぶり、いよいよテントの外へ出た。
周囲には他にもテントがあり、ほとんどがボロボロだった。貧しい人々がこの大きな橋の下に住んでいると聞いたことがある。旅人もここにテントを借りることがあるらしい。街のホテルより安いからだ。
ただ、人が多いため、盗難が頻繁に起こる。若者がいたずらしに来ることもある。そのため、警官が巡回に来ることもある。幸い、今回は何もなかった。テントのレンタル料を支払い、その場を後にした。
※※※
この街「アファロス」がこんなにも美しいとは気づかなかった。実は、昨夜到着したばかりで、まだ街をよく観察できていない。
橋からやっと100メートル離れた所で、街の本格的な住宅街を目にした。その奥に、街を囲む大きな壁があり、更に奥には、うっすらと工場の煙が上がっていることに気づいた。
かつてこの国の中層地区で最も重要な都市だったと言われている。商業の中心地として人々が集まっていた。今ではその輝きは失われたが、依然として影響力はある。
とか言いながら、僕は冷静さを保ち続けた。なにせ、こういうところで子供心に支配されては困る。あまり目立たず、常に警戒して歩き続けた。
そんな中、続いて僕を出迎えたのは、驚きの連続だった。
石畳の道、レンガ造りの建物。さまざまな服を着た人々。背の高い人も低い人もいた。
時折、金属の機械が通り過ぎる…たしか「自動車」と呼ばれていたはず。それはさておき、技術は僕の故郷よりも遥かに進んでいた。
ーすっげー!
とか、僕にとっては語彙力が奪われるほどのものだった。(元から少ないってのに)。
でも、
「ちゃんと前向いて歩け、バカ野郎!」と、ぶつかった誰かから罵声を浴びてから、そんな気持ちは薄れていった..
「技術が発展しても、人の道徳心は原始時代か...」
とか、小声で言ったりもした。
こんな独り言が聞かれていたら、おそらく殴られていただろう...
※※※
街をウロウロ見ていたら、突然、
『バカ!』
と、
聞き慣れた声は、僕を我に返した。
ー危うく目的を忘れるところだった...
実は、僕は観光に来たわけではない。ある人物に会いに来たのだ。その名もロメロ・オンブリゴ。父の友人で元軍人。世間では確か、「78の伝説」と呼ばれているような気がする。
例の事件の後、彼は何度も僕を訪ねてきてくれた。最後に会ったのは5年前、まだアンコナに住んでいた頃だった。
彼が去る前に、手紙をくれた(手紙ってよりかは、紙切れに近い)。当時はあまり気にしていなかったが、今では状況が変わった。
この国は変わろうとしている。そして彼はその鍵を握る人物だ。
手紙にはロメロの居場所は書かれていない。ただ、ある居酒屋の住所が記されているだけだ。
もちろん、行くしかない。
そういえば、
昨夜、橋の下でこの場所について少し調べた。
そこで、こんな噂を耳にした:
—バーの店主は高層地区から引っ越してきたらしい。
—なんで?
—さあ。でも娘を亡くしたと聞いたことがある。それが関係しているのかも。
※※※
バーへ向かう途中、ある事件が起きた。
ほとんど人のいない路地で、数人の警官が一人の男を拘束していた。男はひどく傷ついていた。周囲にはほとんど人がいなかった。警官のそばには一人の少年がいた。彼は泣きたいのを必死にこらえながら、その惨状を見つめていた。
「息子だけは..」と男は脆弱な体を警官に向けながら言った。
警官たちは何も言わず、手錠をかけ続けた。彼らの目にはなんの動揺もなかった。
ー酷い。
その言葉が瞬時に心の底から浮かび上がった。
「この人は何をしたんですか?」と、僕は好奇心から尋ねた。
「この父親は息子と一緒に自分の地区から逃げたんだ。脱走者に何をするかはご存じでしょう?」と、警官の一人が言いながら、僕の手首をさりげなく確認した。
ー勝手に見んなゲス野郎。
と言ってしまうほどの、あまりにも強い嫌悪感を必死で隠した。
警官は何も怪しいものがないとわかると、話を続けた。
「見てください」と、少年の手首を見せてきた。指の形の印が示されていた。
「この父親は、息子の『ノタム』を変えるのを忘れるほど愚かだったんですよ」と、嘲笑しながら言った。
「逃げる代わりに抵抗して、息子を逃がそうとした。だから、暴力に訴えるしかなかったんです。」
男は弱り切っていて、反論すらできなかった。少年は何か言いたそうだったが、声が出なかった。
「我々は少年に危害を加えるつもりはありません。彼を元の地区に戻すだけです。」
通りすがりの人々も不快そうに見ていたが、誰も何もしなかった。
僕も何もできず、ただ無力感に襲われた。少年を助ければ、自分も逮捕されるかもしれない。そんなリスクは負えなかった。
「チッ」と、舌打ちだけをして、その場を離れることにした。
しかし、去る前に少年が一瞬の隙に僕を見た。目が合うと、彼は視線をそらした。
胸が締め付けられるような悲しみを感じた。何もできないこと、逃げるしかないことが苦しかった。自分はただの傍観者にすぎなかった。
しばらくして、警官たちは男と少年をどこかへ連れて行った。
その出来事が当分頭から離れなかった。
少年の目。
警官たちの笑い声。
自分の無力さ...
このままじゃおかしくなりそうだったから、
《悔やんどる場合か!》と自分に強く言い聞かせた。
『弱い男には何も変えられない。』それは義父の言葉。
今でも僕を支えてくれる、大事な言葉だ。
彼を、そして自分自身を裏切ってはいけない。
※※※
長い道のりを歩いた後、ついにあのバーに到着した。街の中心の近くだった。いくつかの建物の並びにあった。
ーここか...
入口には「Bar de Bares」と書かれた看板が掲げられていた。古びた様子はなく、むしろ外観は上品だった。外には小さなメニュー看板もあった。
一応手紙を再確認したが、やはり、ここで間違いないようだ。
「あぁ~」
深呼吸をしてベレー帽を整えた。
緊張よりも大きい高揚感を抑えながら、気合のこもった笑顔を作った。
そして我、
アレハンドロ•オンブロは、未知なる段階へと足を踏み入れるのだった。




