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ペステ:革命は内側から始まる  作者: fm344
第一章 アファロス:古びた経済の都
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10節 向かう先は廃倉庫

 途中で、ジュリオと僕の間で謎の沈黙が続いた。  


 気まずさによるものではなく、恐らくお互いの警戒心――いや、信頼の低さによるものだと思う。

 

 無理もない。

 実際、彼と初めて会ったのは数時間前。逆にこんな短時間で会話が弾んだのは凄いことだ。


《それくらい彼は会話が得意なのかも知れない。》


 でも、これから協力する仲になるって言うのに、この感じでは落ち着かないから、何かしら会話を始めることにした。


「…ところで、バーにいた黒髪の店員とジュリオさんってどういう関係なんですか?」


 今振り返ってみたら、結構場違いな質問だったのかも知れない。


「…ラウルのこと?――まあ、彼はただの友人だよ。私たちの思想とは関係ない。

しばらくの間、彼にバーを任せている」


 彼は僕の数歩前を歩きながら、落ち着いた口調で答えた。


「知っての通り、バーは中心部に近い上、僕自身は元プロミネンテだ。だから、あまり注目を浴びないように、街の外れで集まることにした。

とはいえ、長い間離れていると怪しまれるからな… 」


《怪しまれる…》


 なぜか、盗み聞きしたバーでの会話を思い出してしまった。


 でも、僕には関係ないだろうと思い、黙ることにした。

 はっきり言って、人の友人関係にいちいち顔を突っ込むことはできない――そこまで僕は暇な人ではないのだ。


 そう思いながら、街の門へと繋がる重要道路に入った。

 立派な北門を背景に、多くの警備兵が周囲を巡回していた。


「――ところでアレハンドロ、君はどうやってこの街に入ったんだ?」と、ジュリオが警備兵の視線を避けながら聞いた。


「…正面の入口から入りました」

 

 彼の後ろを歩きながら言った。


 ジュリオは少し驚いた顔をした。


「それは、どうやって――?」


「ある荷車の中に隠れて入りました。運転手に金を払って、見つからないように頼んで。」


 僕は手首を見せた。


「それに、誰かに偽のノタムを描いてもらい、おかげで問題なく潜入可能…って感じです」


 ジュリオはマジかとでも言うような笑みを見せて、やれやれと、ため息をついた。


「ハハッ、命知らずだな。もっと簡単な方法があるってのに。」


《簡単な方法?》


 彼はまるで僕の心の声を聞いたかのような笑みを見せ、すぐさま前を向いた。


「さて、――着いたぞ。」と言って、ジュリオは突然立ち止まった。



 目の前には古びた家があり、彼はその扉に近づき、軽く叩いた。そしてしばらくすると、扉の小さな穴から声が聞こえた。


 個人的には、誰かが住んでいるとは信じがたいほど、今にも崩れそうな古い家だった


「誰だい?」


 しわがれた、冷たい声で誰かが中から尋ねて来た。声の高さから、それが女性のものであると分かった。


「俺だよ、ロサさん。ジュリオだ。」


 ジュリオの一人称の変化にはすぐに気づいた。

 正直、こっちの方が自然でピンとくる。


「…やっと来たか。で、そっちの若いのは?」


 その声だけで、とても強い警戒心を感じ取る事ができた。


「俺の知人だ。心配いらない」


「…ったく、その調子じゃ、いつ厄介なやつを連れて来てもおかしくない」


 無感情だが、同時に呆れを感じ取れる口調でもあった。


「さぁね」と、急に低く、謎ぶいた声でジュリオは言った。


 老婆はため息をつき、

「入れ。」と、凄く冷たい口調で言った。



 扉を開けると、彼女の姿が現れた。

 髪は白髪だらけで、少し猫背だった。でも、年の割にはシワが少ない方だと思う。



※※※



 彼女は僕とジュリオを家の中の一番奥で、奇妙な柄の絨毯の敷かれた部屋へ案内した。


 そこは凄く湿っていて、非常に古臭い。

 近くにあるアファロス壁のせいで、何年間も光が入っていないとロサさんは教えてくれた。


《壁の近くは案外、不便が多いのかも知れないな》



「アレハンドロ、これから見ることは誰にも言うなよ。――さもなければ…」


 彼は僕の肩に手をやりながら、低い声で言った。


 冗談とも言い切れないその絶妙な口調に、僕は特に動揺せず、


「はいはい」


 と言って、ただ軽く受け流した。



 老婆は絨毯を動かし、床に隠された扉を露わにした。それを開けると、下へ続く梯子が見えた。 

 

 何をするのかが、すぐに理解できた。


「来る頻度はほどほどにしろよ」と、彼女は小声で言い残し、部屋を出ていった。


 ジュリオは階段に手をかけて降りていき、僕も後を追った。



 底は完全に暗く、狭い地下通路だった。空気は湿っていて、どこか異様だった。

 気になって手を少し伸ばしてみると、ペタッと、すぐ壁に触れるた。

 

 生まれて初めて、閉所恐怖症でないことに感謝した。


 一方で、ジュリオは十分慣れた様子で、ポケットからライターを取り出して火を灯した。おかげで、壁が見える程度には明るくなった。


 そして、

「ついて来い」と言って、彼は歩き始めた。



 壁はおそらく、セメントのようなものでできており、そこら中には穴や変なケーブルの通り道があった。でも、何を繋げているのかは分からない。


 また、地面は硬い土のままで、そこらへんに凹みがあったため、注意して歩くしかなかった。


 彼は用心深く下を向きながら歩く僕を見て、ニコニコしながら、

「ここにはゴキブリが多いから、踏まないように気をつけろよ。」と言った。


《僕をからかっているつもりか?》


「ハハ、ゴキブリなんて怖くないよ。まあ…君の背中にいるやつ以外はね。」


 同じ口調でニコニコしながら僕も言った。


「な、なんだって!?」


 ジュリオは慌ててシャツを脱ぎ始め、それを見て、僕は不意にも笑ってしまった。


「ハハハ! …冗談ですよ。」と、笑いすぎたせいで少し痛くなったお腹を抑えながら僕は言った。


 彼は僕を呆れと安堵の目で見た。


「冗談?」


 彼は僕に軽く拳を一発くれた。


「――まあ、当然の報いか…」


 と、頭を抑えながら、僕は小声でつぶやいた。



※※※



 しばらく歩くと、また梯子が現れ、それを登ると、今回は廃墟のような倉庫に出た。


 おそらく、ここはもう壁の外だ。


「アレハンドロ、これから仲間となる人物を数人紹介する」


 彼は服についた埃を手で叩き落としながら言った。


《やっぱりいるのか‥》

 予想はしていたがこんなあっさり会えるとは思っていなかった。


「ちょっと気が強い連中だけど、きっとうまくやれるさ」と彼は言い、手で"ついてこい"の合図をした。



 倉庫は非常に広く、小さな家なら数軒入りそうなほどだった。 

 また、入り口の方向には壁はなく、物の出入りには適した構造だと思う。


 しかし、その広さの割には物が非常に少なく、空の箱や樽しか見当たらなかった。どれも結構古そうで、不気味な雰囲気を宿していた。


 けど、天井にある大きな穴から太陽が覗き込んで、場所を十分なほどに照らしていたため、恐怖とまではいかなかった。


《にしても静かだな…》


 工場地帯の近くにあるはずなのに、外からの人の気配などは一切感じなかった。そもそも、入り口や、壁の穴から見るには、周りにも廃倉庫がいくつかあるらしい。


 そこら中にある崩壊寸前の柱から、遠くにある階段が垣間見えた。そして、それを上った先には扉があり、ジュリオによると、そこに彼ら(仲間)がいるらしい。


 固唾を飲みながら進むと、人の声や物音が聞こえ始め、近づくにつれ少し多くなった。


「また騒いでるな…」と、呆れた顔をしながらもジュリオが言った。


 あの壁の向こうにいるのがどんな人たちなのかは少しも想像がつかないが、仲良く――いや、協力する必要があるのは間違いない。



《まあ、アンコナの時と比べたら、大したことじゃないかもしれないな…》


 よく考えてみたら今の自分は、あの頃の自分とは違う。あの頃の僕は何も望んでいなかったし、望む理由すらなかった。


 けど、今の僕には望みと、それを叶えるための度胸と理由――今回は守るべきものがある。


「やれるさ!」と自分に言い聞かせ、僕は元気づいた。


 ジュリオは階段を登り始め、彼と三段ほど遅れて僕も登り始めた。それと同時に再び、上から口論が聞こえ始めた。


 片方は少し低く、でも抑揚のある女性の声。

 もう片方は柔らかく、非常にはっきりした男性の声。


 ジュリオは扉の前に立ち、僕を顧みた。僕の晴れない表情を見て不安を察したようだった。


「準備はいいか?」と、扉を開ける前に聞いてきた。


 正直、自信はない。でも、この国を変えたいなら避けては通れない段階である。


 僕は首元に手をやり、ベレー帽を整えてから、自信を込めて答えた。


「ええ、今まで以上に。」

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