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ペステ:革命は内側から始まる  作者: fm344
第一章 アファロス:古びた経済の都
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9節 部屋の外

 ジュリオに次いで、僕も部屋を出た。


 急に明るくなった視界に目を閉じ、少し新鮮な空気が肺に届くのを感じる。


 同じ家なのかと疑いたくなるほど、あの狭い部屋とこの廊下では雰囲気が全く違っていた。


 廊下は中よりずっと清潔で、居心地も良かった。 

 壁は白く、床は木でできていて、子供が走りまわれるほど広く、しっかりした造りだった。


 そうやって周りを眺めていると、ジュリオではない誰かの視線を感じた。


《この視線は…》


 おそるおそる右を見たら、隅にはあの三人の男たちが椅子に座っていた。僕を追いかけ回したあの三人の男たち。


 トラウマ――とまでは行かなくても、当分は残るほどの嫌な思いをしたのは確かだ。


 ジュリオと僕が出てくると、彼らはじっとこちらを見た。その威圧的な姿勢は、実に近寄り難いものだった。


「待たせてすまなかったな、お前たち。」


 謝罪の精神ゼロで、手を頭にやりながらジュリオは言った。


 彼らは、少し退屈そうな顔で僕たちを無言で見続け、とうとう気まずくなって、僕は作り笑いを浮かべた。

 手にはトランプ(?)のようなものを持っていたので、どうやら暇つぶしをしていたらしい。


「それではアレハンドロ、彼らを紹介しよう」


 ジュリオが素早く話を切り替えた。


「まず、片目に包帯を巻いている男はロベルト · シントゥーラ。――真ん中に座っている、頬に傷がある男はウンベルト · アブドメン――」


 三人は自分たちが勝手に紹介されているのを特に気にも留めず、眺めていただけだった。


「――そして、最後の男はジュニオールだ。」


「ジュニオール…苗字は?」


「何も。ジュニオールだけさ。」


「はぁ…」


 納得いかないことは色々あったが、今はそのまま飲み込むことにした。

 いずれ、色々聞ける機会が回ってくるだろうと、無責任だが、その不確かな期待に任せることにした。


「で、この人たちが僕をここに――」


 僕はバツが悪くて、目をそらしながら言った。


「そうだ。だが、あれは私の指令でもあったし、君が抵抗したせいでもある」

 

 ジュリオは軽率かつ無責任に言った。


「その件については、君のことはもう許したよ」と禿頭――いや、ジュニオールは目を瞑って、まるで僕が迷惑を掛けたかのように、両肩を上げながら言った。


「いや、別に許されるほどのことはしてないけどな!?」


 何がなんでも、理不尽にも程がある。


「まあ、そんな事言わずに。今はもう味方だから、礼儀正しく自己紹介しろ」と、彼はどこか微笑みながら言った。


「礼儀正しい男がよく言うよ… 僕の名前はアレハンドロ・オンブロです。よろしく。」


 気は進まなかったが、できるだけ礼儀正しく言おうとした。


 椅子に座っていた三人の男は微笑みながらそれを見た。その微笑みが、どこか僕を小馬鹿にしているようにも見えた。


「――こちらこそ。」と、またもや、不気味な笑顔で一斉に言った。



※※※



「しかし、やっぱり自由って気持ちがいいもんだ」と、背伸びとあくびをしながら僕は言った。


 意識がない間に何かをされたのではないかと心配したが、そんなことがないようで少し安心した。

 強いて言うなら、足首の痛みはまだ残っているが、少し気になる程度で、歩けないほどではない。

 

 そんな僕の様子を見て、笑いながら、

「さっきまで縛られていたもんな。」と、主犯は言った。


「いや、あなたのせいですけどね!?」


 あまりの無責任さに思いっきりツッコミを入れた。彼はそれにただ笑い、再び前を向いた。


「まあ、正直、縛る必要はなかったけどね」


 余計な一言を彼は躊躇なく言った。


《コイツ…》



 家を出る前に、僕は自分の持ち物を回収した。

 

 相棒のベレー帽を手に取り、埃や汚れが付いていないかを確かめてから頭にかぶった。


 ダークウォールナットの幹のような暗い茶色は、見ていてなかなか興味深いものだった。

 確か、これをくれたダニエルになぜこの色にしたのかを聞いてみたら――


『君の髪の毛にそっくりだから』

 

 ――とか言ったような気がする。

 バカみたいな理由だと思うと同時に、心が温まるものでもあった。


 ジュリオはその凸凹した帽子を見て、

「変わった帽子だな」と、からかうように言った。


「友達からのプレゼントですよ。それに、貴方の服の方がよっぽど変だ。」


 僕は帽子を整えながら、そう言って聞かせた。


 そういえば、ジュリオの服装はかなり奇抜だった。

 マントもネクタイもなく、

 ズボンは短く、

 シャツには袖がない。

 デザインも色もやたら派手だ。


「前に住んでた場所ではこれが流行ってたんだ。たまぁに着る程度だよ」


 彼は襟を直しながら、何かを懐かしむように言った。


 こうして、

 足の痛みを少し気にしながらも、僕たちはいよいよあの家を出発した。


 ――現時刻は確か11時くらい…

 僕は意外と寝ていたようだ。



※※※



 街の中心部から離れれば離れるほど、建物の高さや清潔さが落ちていくことに気付いた。

 

 ジュリオによれば(僕の予想通り)、メリク湖(中心)から離れるほど貧しい地域になっていくらしい。そして、あの大きな壁の外に出るとさらにひどくなるという。

 また、先程いた家はあのバーの近くにあり、ジュリオの住まいであることも、ジュリオ本人が教えてくれた。


《そして向かう先は北…》

 詳しくは分からないが、ジュリオは僕に見せたい物があるらしい。

 

 ジュリオの住まいは西エリアの中心付近(北エリアのほぼ隣)にあったが、橋から遠かったため、少し長い距離を歩くしかなかった。

 二人はロミル橋を渡り、西から北エリアへと入った。


 ちなみにこの街は、北・南・東・西の四つのエリアに分かれており、すべてメリク湖から流れる四つの川によって分かれている。

 面白い作りだとは思うが、色々と不便な気もしないではない。まあ、住んでみないと分からないかも知れない。

 


《にしても大きい湖だよな…》


 少し遠くに、複数ある建物の隙から、あの大きな湖が見える。僕からすれば、4000コド(メートルで言うと2000)くらい――いや、それ以上あってもおかしくない。

 ただ、街の高低差が全体的に少ないので、小説のような、丘から見下ろすような光景は実現できないのは少し残念。


 それでも――、

 なんだかんだ言って、ロマンはあると思う。


「中々デカいだろ? この国でも最大級なんだ」


 ジュリオが僕の隣を歩きながら笑顔で言った。


 僕と彼とではあまり身長差がないが、ジュリオの方が少し高い気がする。


「ええ。こんな大きい湖は中々目にすることはないですから。」

 

 僕は少し笑顔で、真っ青の水面が日光を反射する様子を見た。近くを通ってる子供たちも、あの光景に目を輝かせながら親の側を歩いていた。


 そう歩いていると、突然、ある年寄りがジュリオを見て、

「久しぶり、ジュリオ!」と、元気よく呼んだ。


 ジュリオは少し目を開き、手を振りながら、

「久しぶりだな、ダナン!」と、元気よく返した。


「少し心配したよ、最近全然君を見かけないからねぇ…」と、年寄りは手に持っていた、少し高そうな杖に支えられながら言った。


 ジュリオの顔や口調などから、ただの知り合いに過ぎないと察した。


「こっちも色々忙しいんですよ。でも、暇があればバーに寄るようにはしてます」


 今更だが、彼の外見よりずっと、

 その嘘でも本当でもあるかのような、奇妙な雰囲気を宿った話し方が一番の特徴だと思っている。


「この前君のバーに行った時も、ラウル君しかいなくて、少し心配したぞ…」と、年寄りは頑張ってシワだらけの目を開きながら言った。


 ジュリオはただ場の雰囲気に合わせて笑った。


《ラウル…》

 確か、あのバーで聞いた名前だ。あの店員の名前だったような気がする。


「もしかして、今からどこかに行くのかい?」と、彼は僕のことを見ながら言った。


「なぜそれがっ!?」


 ジュリオの大げさな驚いたふりに、年寄りは笑った。


「やっぱ君は面白いやつだぁ…

プロミネンテにこんな人がいたなんてねぇ。――まあ、君たちは急いでるだろうし、無駄話はここまでにしとくよ」


 そう言って、妙な後味を残して老人は帰った。

 去っていく彼の様子を見たジュリオの笑顔も、少し意味深なものだった気がする。



 その後も、僕たちは目的地へ歩き続け、時折、ジュリオのことを知っている人に会うことがあった。


《結構顔が広いんだな…》


 彼はこの街、この人々に馴染んでいる様子だった。住民側も、彼を特別扱いはしなかった(プロミネンテであることは常に気にかけていたが)。


 しかし、そんな彼がこの国を変える存在であることは、誰一人も予想していないだろう…

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