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ペステ:革命は内側から始まる  作者: fm344
第一章 アファロス:古びた経済の都
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8節 手紙の意味

「ノタムにバツってかっこいいよなー」


 いずれ友人になるリコが、子供らしい、生意気な口調で言った。


「それなー。俺もこんなダセェの、やだ」

 

 隣にいたビクトルも大げさな顔をしてその意を示した。



 確か、これは学校に通っていた頃の、ある放課後の些細な出来事。

 詳細はよく思い出せないが、子どもたちは手首の見せ合いをして、どこかの流れでこの話になったのだろう。


 そしてその部屋の隅で、僕は彼らを見つめていた。 



 記憶が正しければ、この頃の僕はまだ、彼らみたいな人たちを毛嫌いしていたはずだ。

 例の事件から一ヶ月、引っ越してから数週間経ったくらいで、何もかも馴染めていない頃―― 

 ――一人になりたくてどうしようもないような時期だった。


《孤独は辛い。》


 その意見は正しいと思う。

 しかし、僕は同時に、「孤独」を「平穏」としても捉えていた。


 心が休まる――いや、傷つかないための方法だと思っていた。無縁こそ平和だって思っていた。


 それゆえに、僕は自分がやっていたことがどれほど身勝手で、周りが傷つくものであったかに見向きもしなかった。

 

 彼女に気づかされるまで…


「かっこいいことなんてないわ!」


 確か、マルタが手を腰にやりながら、彼らの前に立ち、言った。


 彼女は強い性格で、時々同い年の男子と言い合いになっていた。


「なんでだよ?」


 リコとビクトルは同時に尋ねた。


「だってそのバツ印は、自分の立場を剥奪された人がもらう“罰”だからよ。」

 

 冷静に、でも同時に二人を煽っているかのような口調で、近くにいたルシアが答えた。


 男子2人は、突然話に入り込んだ彼女に敵意の目を向けたが、彼女はそれを気に留めず、受け流した。


「よく言ったわルシアちゃん!!」

 と、マルタは笑顔で言い、


「授業で習ったことだし、知ってて当然よ」

 と、至極当然に、ルシアは言った。


 ――どうでも良い会話。

 この時はそう思っていたに違いない。


 そして、まるでそれが分かっていたかのように、突然、彼女が視線を僕に向けた。


『――そうでしょ、アレハンドロ?』


---


「おい! 何ぼーっとしてんだ?」


 急に、ジュリオが僕を起こした。


「あー、悪い。」と僕は頭を少し抱えて言った。


 彼はため息をついてから、再び僕に向かって、


「さて、今度こそ君の名前を教えてくれるか?」


 と聞いてきた。


《もう、答えるしかないようだ…》


 深呼吸とも取れるため息をついてから、


「僕の名前は…アレハンドロ · オンブロです。」


 と、きちんと答えた。


 ロメロの時と違い、僕の名前を聞いて、彼は少しだけ驚きの反応をした。


「オンブロ…なるほど。これで私は名前を言ったし、君も言ったことになる。

では、立場的に、君の質問に答える前に、君が私の質問に答えてくれ…

――私を探していた理由はなんだ?」


 彼の表情が急に真剣になり、ポケットに閉まっていた手を出し、腕を組んだ。


 僕は彼を見つめ返した。


 ついでにベレー帽を直そうとしたが、持っていないことに気づいた。あの男たちに没収されたのだろう。


「…ロメロを、探しに来ました。彼の知り合いです。」と、正直に答えた。


「ロメロ?ああ、知ってるよ。昔は友人だった。でも、彼を探してるのに、なぜ私を?」

 彼にとって、十分な答えでなかったようだ。


《確かに今、「昔は友人だった」と言った》


 ――今もそうなのか。

 答えは分からない。


 それに、彼は追放されても、ほぼプロミネンテのようなものだ。もし僕の計画を知ったら、通報されるかもしれない…

 そんなことを考えていると、男がポケットから何かを取り出した。


「もしかして、――この手紙が関係してるのか?」


 彼の手には、僕の、あの紙切れがあった。バーの住所しか書かれてない、ロメロからの手紙。


「“特に何も書かれていない”。誰だってそう思うだろう。君もそう思ったんじゃないか?」と、紙切れをパラパラと振りながら彼は言った。


「…どういう意味ですか?」

 自分の物で勝手に遊ばれてる気分だった。


「ふふ、見てみな」


 男はポケットからライターのようなものを取り出し、少しずつ手紙に近づけた。


「おい!! それは!!」


 彼はこっちを見て、うっすらと笑った。


「黙って見てろ。」


 すると、装置に火が灯り、手紙が変化し始めた。燃えたのではなく、文字が浮かび上がってきたのだ。

 これには流石の僕も口を開いた。


「ハハッ、すごいだろ?」


 男は火を消し、ライターをポケットに戻した。  

 そして手紙を隣のテーブルに置いた。



 ここで、ひとつ疑問が浮かんだ。

 ――どうしてジュリオは隠された文字の存在を知っていたのか?


 どれだけ注意深く見ても、普通は気づけない。

 もし、そんな簡単に見えるものなら、僕か義父がとっくに解読していたはずだ。


 眉をひそめて、文字を読もうとしたが、距離があって見えなかった。


 ジュリオは床を見つめ、再びため息をついてから僕を見た。


「実はアレハンドロ、君を待っていたんだ。」


《何だよ急に…》

 突然の口調の変化に驚いた。


「…待っていた?」


 僕は少し不安げに彼を見た。


 彼は表情を一切変えず、続けた。


「あぁ。君が必要なんだ。」


 僕は彼を真剣に見て、その言葉を聞き逃さなかった。


「――この国を変えるために。」



 その瞬間、僕は手紙の本当の意味を理解した。

  

 つまり、

 手紙の目的は"ロメロを探す"ことではなく、僕を"ジュリオに会わせる"ことだったのだ。



※※※



 実は、ロメロがアファロスに家を持っていることは、到着後に確認した。だが、誰もおらず、近所の人に聞いても、しばらく見ていないという。

 

 ――なぜ彼は僕にバーの住所を教えたのか?


 それが今なら分かる。彼は――

 ――ロメロはこの街にいない。


 手紙を渡した時点で、彼は自分が不在になることを知っていたのだ。だから、ジュリオのバーの住所を教えた。ジュリオはバーを離れないから。


《全てが繋がった!!》

 心の中で、長い間探したパズルのピースがやっと見つかったかのような満足感を覚えた。


「じゃあ、僕がここに来た理由が分かっているんですね?」


 ジュリオは微笑んだ。


「もちろん。そして、それがどれほど危険なことかも分かってる。君もだろ?」と、彼は落ち着いて言った。


 その後、彼は無言で僕に背を向け、扉の方へ向かった。


 そのとき、天井に小さな穴があることに気づいた。

 そこから差し込む光がテーブルの上の手紙を照らし始め、おかげでようやく、そこに書かれた文字が読めた。


          「PESTEペステ


 という単純な言葉だった。


 僕はそれを読んで思わず苦笑いした。その言葉を見るのは、これで二度目だ。


 そして、僕が立つ準備をすると同時に、ジュリオは扉の前で立ち止まり、僕に尋ねた。


「来るのか?

      ――それとも、来ないのか?」


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