8節 手紙の意味
「ノタムにバツってかっこいいよなー」
いずれ友人になるリコが、子供らしい、生意気な口調で言った。
「それなー。俺もこんなダセェの、やだ」
隣にいたビクトルも大げさな顔をしてその意を示した。
確か、これは学校に通っていた頃の、ある放課後の些細な出来事。
詳細はよく思い出せないが、子どもたちは手首の見せ合いをして、どこかの流れでこの話になったのだろう。
そしてその部屋の隅で、僕は彼らを見つめていた。
記憶が正しければ、この頃の僕はまだ、彼らみたいな人たちを毛嫌いしていたはずだ。
例の事件から一ヶ月、引っ越してから数週間経ったくらいで、何もかも馴染めていない頃――
――一人になりたくてどうしようもないような時期だった。
《孤独は辛い。》
その意見は正しいと思う。
しかし、僕は同時に、「孤独」を「平穏」としても捉えていた。
心が休まる――いや、傷つかないための方法だと思っていた。無縁こそ平和だって思っていた。
それゆえに、僕は自分がやっていたことがどれほど身勝手で、周りが傷つくものであったかに見向きもしなかった。
彼女に気づかされるまで…
「かっこいいことなんてないわ!」
確か、マルタが手を腰にやりながら、彼らの前に立ち、言った。
彼女は強い性格で、時々同い年の男子と言い合いになっていた。
「なんでだよ?」
リコとビクトルは同時に尋ねた。
「だってそのバツ印は、自分の立場を剥奪された人がもらう“罰”だからよ。」
冷静に、でも同時に二人を煽っているかのような口調で、近くにいたルシアが答えた。
男子2人は、突然話に入り込んだ彼女に敵意の目を向けたが、彼女はそれを気に留めず、受け流した。
「よく言ったわルシアちゃん!!」
と、マルタは笑顔で言い、
「授業で習ったことだし、知ってて当然よ」
と、至極当然に、ルシアは言った。
――どうでも良い会話。
この時はそう思っていたに違いない。
そして、まるでそれが分かっていたかのように、突然、彼女が視線を僕に向けた。
『――そうでしょ、アレハンドロ?』
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「おい! 何ぼーっとしてんだ?」
急に、ジュリオが僕を起こした。
「あー、悪い。」と僕は頭を少し抱えて言った。
彼はため息をついてから、再び僕に向かって、
「さて、今度こそ君の名前を教えてくれるか?」
と聞いてきた。
《もう、答えるしかないようだ…》
深呼吸とも取れるため息をついてから、
「僕の名前は…アレハンドロ · オンブロです。」
と、きちんと答えた。
ロメロの時と違い、僕の名前を聞いて、彼は少しだけ驚きの反応をした。
「オンブロ…なるほど。これで私は名前を言ったし、君も言ったことになる。
では、立場的に、君の質問に答える前に、君が私の質問に答えてくれ…
――私を探していた理由はなんだ?」
彼の表情が急に真剣になり、ポケットに閉まっていた手を出し、腕を組んだ。
僕は彼を見つめ返した。
ついでにベレー帽を直そうとしたが、持っていないことに気づいた。あの男たちに没収されたのだろう。
「…ロメロを、探しに来ました。彼の知り合いです。」と、正直に答えた。
「ロメロ?ああ、知ってるよ。昔は友人だった。でも、彼を探してるのに、なぜ私を?」
彼にとって、十分な答えでなかったようだ。
《確かに今、「昔は友人だった」と言った》
――今もそうなのか。
答えは分からない。
それに、彼は追放されても、ほぼプロミネンテのようなものだ。もし僕の計画を知ったら、通報されるかもしれない…
そんなことを考えていると、男がポケットから何かを取り出した。
「もしかして、――この手紙が関係してるのか?」
彼の手には、僕の、あの紙切れがあった。バーの住所しか書かれてない、ロメロからの手紙。
「“特に何も書かれていない”。誰だってそう思うだろう。君もそう思ったんじゃないか?」と、紙切れをパラパラと振りながら彼は言った。
「…どういう意味ですか?」
自分の物で勝手に遊ばれてる気分だった。
「ふふ、見てみな」
男はポケットからライターのようなものを取り出し、少しずつ手紙に近づけた。
「おい!! それは!!」
彼はこっちを見て、うっすらと笑った。
「黙って見てろ。」
すると、装置に火が灯り、手紙が変化し始めた。燃えたのではなく、文字が浮かび上がってきたのだ。
これには流石の僕も口を開いた。
「ハハッ、すごいだろ?」
男は火を消し、ライターをポケットに戻した。
そして手紙を隣のテーブルに置いた。
ここで、ひとつ疑問が浮かんだ。
――どうしてジュリオは隠された文字の存在を知っていたのか?
どれだけ注意深く見ても、普通は気づけない。
もし、そんな簡単に見えるものなら、僕か義父がとっくに解読していたはずだ。
眉をひそめて、文字を読もうとしたが、距離があって見えなかった。
ジュリオは床を見つめ、再びため息をついてから僕を見た。
「実はアレハンドロ、君を待っていたんだ。」
《何だよ急に…》
突然の口調の変化に驚いた。
「…待っていた?」
僕は少し不安げに彼を見た。
彼は表情を一切変えず、続けた。
「あぁ。君が必要なんだ。」
僕は彼を真剣に見て、その言葉を聞き逃さなかった。
「――この国を変えるために。」
その瞬間、僕は手紙の本当の意味を理解した。
つまり、
手紙の目的は"ロメロを探す"ことではなく、僕を"ジュリオに会わせる"ことだったのだ。
※※※
実は、ロメロがアファロスに家を持っていることは、到着後に確認した。だが、誰もおらず、近所の人に聞いても、しばらく見ていないという。
――なぜ彼は僕にバーの住所を教えたのか?
それが今なら分かる。彼は――
――ロメロはこの街にいない。
手紙を渡した時点で、彼は自分が不在になることを知っていたのだ。だから、ジュリオのバーの住所を教えた。ジュリオはバーを離れないから。
《全てが繋がった!!》
心の中で、長い間探したパズルのピースがやっと見つかったかのような満足感を覚えた。
「じゃあ、僕がここに来た理由が分かっているんですね?」
ジュリオは微笑んだ。
「もちろん。そして、それがどれほど危険なことかも分かってる。君もだろ?」と、彼は落ち着いて言った。
その後、彼は無言で僕に背を向け、扉の方へ向かった。
そのとき、天井に小さな穴があることに気づいた。
そこから差し込む光がテーブルの上の手紙を照らし始め、おかげでようやく、そこに書かれた文字が読めた。
「PESTE」
という単純な言葉だった。
僕はそれを読んで思わず苦笑いした。その言葉を見るのは、これで二度目だ。
そして、僕が立つ準備をすると同時に、ジュリオは扉の前で立ち止まり、僕に尋ねた。
「来るのか?
――それとも、来ないのか?」




