第9話 ボス
ギ、ギ、ギギギギギィ……。
俺と柊木さんを乗せたロボは金属の軋む音を立てながら倒れてゆく。
傾きが45度を超え、バキバキに荒れた5階の床が迫る。
いよいよダメかも知れないな。と、頭の隅で死を覚悟したその時、動きが止まった。
「おいおい、大丈夫か」
聞き慣れない男性の声。
声の主を探そうとした俺の視界がグルンと回る。
ドスン。と地響きを立ててロボが地面に降ろされた。
「危ないとこだったな」
そう言ってニッと笑ったのは、筋骨隆々の大男……ではなく、スーツにサングラスに金髪の細身の男だった。
こんなホストみたいな人が、日中の学校の、さらには瓦礫の真ん中にいることになんだか違和感を感じる。
「坊主、どこも怪我はねぇか?」
「は、はい……」
俺は、返事とともに、止めていたらしい息を吐いた。
「俺が行くまで手ぇ出すなっつったろ?」
金髪の男にジロリと睨まれて、斎賀さんが肩をすくめる。
斎賀さんも女性にしては背の高い……175センチくらいはありそうな人だけど、この男はそれよりさらに3センチほど背が高い。
「や、その……すまん」
「柊木は意識あったんじゃねぇのかよ」
「あー……」
目を泳がせる斎賀さんの代わりに、俺が答える。
「さっきまではありました」
「斎賀ぁぁぁぁ!」
金髪の男に怒鳴られて、斎賀さんは小さくなってしまう。
そこへ、どすどすどすと足音を響かせながら小柄でふくよかな白衣の男が駆け寄ってきた。
「ほいほいほーい、遅くなってごめんねぇ。ここまで階段しかなくってさぁ。あー、これはもう結構時間経っちゃってるなー」
白衣の男はふぅふぅ息をしながら、両手と背中に抱えた大荷物を次々にその場に広げる。
「斎賀、手伝ってやれ」
金髪の男に言われて、斎賀さんは慌てて荷解きを手伝い始める。
金髪の男は白衣の男に「すぐ外せそうか?」と尋ねた。
「早いほうがいいの?」
「なるべくな」
「じゃあ……」と白衣の男が顔を上げて俺を見る。
「君。痛いのと熱いのだったらどっちがいい?」
どういうことだよ。
「もう少し詳しくお願いします」
俺の言葉に口を開きかけた白衣の男を、金髪の男が手で制した。
「俺が説明する、お前は準備しとけ」
「ほいほーい」
「挨拶が遅れたな、俺は竜雲、コンカー協会森江支局のボスだ」
ボス……?
「支局長ってことだよ」と斎賀さんが補足してくれる。
「今回はうちの柊木が世話んなったな。礼を言う」
金色の頭がまっすぐ下げられて、俺はちょっと面食らう。
「あ、いいえ……」
ガバッと頭を上げたボスは、一気に話を進める。
「でだ、お前にも柊木にも色々と確認したいことがあるんだが、お前は一般人のようだし健康チェックが先になるな。で、早急に捕捉状態を解除する必要がある。手っ取り早いのは、砕くか溶かすかのどっちかだ」
「はあ……」
「砕くなら斎賀が叩っ切る」
それってまさか、俺と柊木さんごと……ってことか!?
思わず斎賀さんを見ると、斎賀さんはさっきの細い剣を一瞬で取り出して振って見せた。
「溶かすなら、箕輪が……、あ、こいつな。バーナーで炙る」
紹介されて、白衣の男が額にあったゴーグルを装着する。
白衣の男は屋台で見る射的銃よりも大きなバーナーを構えて、ゴウっと火を出すと「炙るよー」と笑顔で言う。
「どちらにするかはお前が選んでいい」
ボスは俺をじっと見つめて言った。




