第6話 ロボット
「柊木さん、起きてくれ」
大声を出してはモンスター達の気を引いてしまう。
俺は小声で彼女を呼びながら、その名を記憶の中で探す。
だがやはりその名に覚えは無かった。
そもそもあの頃の同級生と俺は学年が違うはずだ。
……いや、だからこそ、彼女は俺に敬語を使っていたのか?
「ぅ……ん……」
彼女の瞼が動く。
「柊木さん、いい? 目が覚めても、大声は出さないで」
俺はまとまってきた考えをひとまず横に置くと、なるべく落ち着いた口調で彼女に囁いた。
「ふぇ……? わたし…………」
ゆっくり目を開けた柊木さんは、すぐ近くにある俺の顔に驚いたのか、目を丸くする。俺は「静かにね」と彼女を素早く制してから、尋ねた。
「残念ながら今俺達はこんな状況なんだけど、柊木さんはここからなんとかできそう?」
俺の判断では、この状態では、あのモンスター達の喧嘩に片がつく前にコンカーがここに駆けつけてくれない限りは、俺も柊木さんもアウトだと思う。
「あ、あの、どうしてあのモンスター達は戦ってるんですか……?」
「多分だけど、どっちが君を食べるかで争ってるんじゃないかな」
「人気者だね」と付け足すと柊木さんは「ぴぇぇ……」と半べそになった。
「何かできる事ない?」俺がもう一度尋ねると、柊木さんは視線を泳がせる。
これは難しそうだな。やはり、あの『大丈夫』も口から出まかせだったようだ。
希望を失ってがっかりしたはずなのに、俺は口元が緩んでしまいそうになる。
だって、あれがただの嘘ならそれは、彼女があの時、俺だけでも逃がそうとしてくれたって事だ。
「ぁ、え、と、あの……」
「うん?」
「できることは、ないことはないんですが、その、私一人じゃできなくて……」
「つまり?」
「私ができるのは、人の装備品を作ることだけなんです」
「へぇ?」
戦おうとする様子はないし、サポート系なんだろうとは思ったけど、これは聞いた事がない能力だな。
「ただその、装備のイメージは、相手がすることになるので……」
イメージ……ってことは操作系か……?
「自分用の装備は作れないのか?」
「ぅ、えーと、その……練習中ですぅ……」
無理なんだな。だとしたら……。
「俺の装備なら作れるって事か?」
「は、はい、えっと……。装備品に私と装着者が触れていて……」
「車椅子は装備品に入ると思うか?」
「えーっと、多分? あとは、装着者が私に完成イメージを伝えてくれたら……」
「どうやって?」
「普段は私のおでこに装着者が手を当ててくれるんですが……、でもその、物体をイメージするのって結構難しいので、そう簡単には……」
ゴドンッと大きな音を立てて、俺達を追い回していたモンスターの最後の一体がついに倒れた。
5階はすでに屋上フロア全体が見るも無惨な姿になっている。
講義室も壁が吹き飛ばされて、このエレベーターホールからも椅子が見えているし、ブリッジも崩落寸前だ。
「見晴らしが良くなったな」
思わず呟く。
勝利を勝ち取った細身のモンスターも、最初に俺達を襲った奴はすでに倒れていて、後から加勢に入った二体のうち一体も片足を失ってもがいている。
唯一五体満足だった細身のモンスターは、こちらを振り返ると、俺達の方へ歩き始めた。
「やるだけやってみよう。いいか?」
俺はモンスターを見据えたまま尋ねる。
「ひゃっ、ひゃいぃっ!」
返事は少し頼りなかったが、一生懸命なことだけは分かった。
「でっ、でも私、動けなくて、手も……」
俺の膝の上でじたばたもがく柊木さんの額めがけて、俺は頭を振り下ろした。
ゴン。と鈍い音がする。
「悪い、ちょっと勢いつけすぎた。いくぞ」
「ひゃぅ」という返事をした柊木さんの顔は、俺には見えなかった。
集中しろ、イメージするんだ。
俺は自分に言い聞かせながら、あの頃の感覚を精一杯呼び覚ます。
俺の両親は俺が小2の夏ダンジョンで行方不明になってしまったが、母は水操作能力を持っていて、俺が小さい頃はよくこんな風に額を合わせて俺のイメージしたものを水で作ってくれた。
まずは車椅子だ。これを……いや、これだけじゃ足りない。俺と柊木さんを乗せて、この重たい捕捉液ごと動けるくらいの力が必要だ。
そうだ。このエレベーター。この機種の内部構造なら分かる。
1階から7階までのあれとこれに、電源も拝借しよう。
こんなに大きくすると柊木さんの巡力が足りないか?
いや、そんなことないな。むしろまだ余裕があるようにさえ感じられる。
流石モンスター達に追い回されるだけあるな。
俺は、たっぷり手渡された巡力を素材に、思うままに車椅子を改造する。
まずは自分たちが落下しないよう、エレベーターの床板はドアの外まで伸ばして固定して、周囲の壁で腕と脚を……作るには足りないな、各階のドアをありったけ使って、装甲を分厚く、モンスターの攻撃に耐えられるように。
単純な構造でいい。無理なく、確実に動くことが大事だ。
額を彼女の額に当ててるせいで出来上がる様子が見られないのは残念だが、ガシャガシャガシャンと心地よい音を立てて、俺のイメージが形になる。
「よし、できたっ」
俺がガバっと顔を上げると、柊木さんも慌てた様子で顔を上げる。
「ひぇえええぇぇええ!? なんですか、これっっっ!?」
「車椅子エレベーターロボ」
「そのまんまですね!?」
二階建てほどの高さはないが、一階建てと半分ほどの高さはあるだろうか。
少なくとも、そこの細身の鎌持ちモンスターよりは俺のロボの方がずっとデカい。
モンスターは、俺達を見上げて数歩後退った。
が、次の瞬間にはグッとしゃがみ込む。
跳ぶ気か!?




