第32話 賛辞
「薙乃さんって、思ったよりずっと素直な方ですよね」
思ったより。ってとこが引っかからなくもないが、一応褒め言葉として受け取っておこうか。
「そういうところ、とっても素敵だなぁって思います」
追加でしっかり褒められて、俺は目を丸くする。
「柊木さんも、優しくて頑張り屋で、それに、思ったよりずっと勇気があって、素敵だと思うよ」
俺は、貰った分にプラスアルファの賛辞で返した。
そう。彼女は普段は怖がりで、自分に自信もなさそうなのに、土壇場では意外なほどの度胸と根性を見せてくれる。
そこに、俺はいつも助けられていた。
「私が頑張れるのは、薙乃さんのことがあったからですよ」
「俺の……?」
「あの時私は動けなくて、それからずっと後悔していました。でも、だからこそ今は、怖くても、足がすくんでも、あんな風に動かないまま後悔したくないって思うと、また走り出せるんです。助けられるかも知れない誰かを、そのままにしたくないって思うから……」
「柊木さん……」
「だから、今の私が頑張れるのは、全部薙乃さんのおかげなんですよ」
そう言って、彼女はにっこり笑った。
俺の……。
じわりと目頭が熱くなる。
俺は慌てて顔を隠した。
「薙乃さん?」
「いや、ちょっと待って。顔見ないでくれ」
「ど、どうしたんですか?」
「……嬉しくて泣きそう……」
「えっ……ええーーっっ、そんなこと言わないで、見せてくださいよーっ」
「なんでだよっ」
「私もさっき泣き顔見られたじゃないですかぁ」
「あれは笑いすぎて泣いてたんだろ」
「涙は涙ですよぅ」
「今度あくびが出た時見せてやるからっ!」
「ええーーー?」
「おーい、二人とも、朝ごはんできたよー」
叔父さんが下から声をかけてくる。
「あ、ほら、叔父さんが昨日いっぱい泣いてただろ。もうあれでいいじゃないか」
「よくないですよぅ。確かに泣き顔はしっかり見ちゃいましたけどっ」
「……二人とも、なんでそんな話してるの……?」
叔父さんがしょんぼりと呟いた。
***
パンとスープで朝食を済ませて、俺は柊木さんに昨日支局長から依頼された脱出ルート作りの話をした。
「それで今朝はこの状態だったんですねぇ」
と、柊木さんは俺の書き殴っていたボツ案の紙束を眺めて言う。
「柊木さんは俺と一緒に脱出ルート作りに挑戦したいと思う?」
「はいっ、それはもちろんっ!」
「けど今回のゲートは天井までの高さが350メートルほどもあるらしいし、東京タワーより高いんだよ?」
「スカイツリーより低いじゃないですか」
俺と同じこと思ってるな……。
「それに脱出ルートを通るのは一般人だ。万が一途中で建築物が崩れたりしたら、大惨事になってしまう可能性だってあるよ」
「それはなんでもそうです」
うーん、まあ、それはそうかも知れないけどさ……。
「それに、薙乃さんならそうならないように十分気をつけて作業をしてくださると思いますから」
ぅあああぁ……。全幅の信頼って結構ずっしりくるな?
俺は頭を抱える。
結局タワー式も螺旋階段式もキャンプファイア式もエスカレーター式も、どれもが安定性を考えると建築物自体の大きさが大きくなって…………、柊木さんがキャパオーバーになる未来しか見えない。
一体どんなモンを作れば、柊木さんに無理をさせずに、1000人近い避難者とコンカー達をあの高さまで運べるんだ……?




