第25話 コックピットカバー
ロボのパンチに吹き飛ばされたモンスターが、書架を粉砕して壁にぶち当たる。
それきりピクリとも動かなくなった。
……あー……。ちょーっと、パワーが強すぎたか……?
衝撃で図書館がズズンと揺れて、俺はちょっと反省する。
どうやら、今回のモンスター達はコンカーが一般人を守るものだと分かって、食べるつもりのない人間を攻撃することにより、コンカーの動きを制限しているようだ。
これは戦いにくかっただろうな……。
結果、コンカー達はそれぞれが1階のあちこちで逃げ遅れた人たちを庇う形になり、モンスター達と一人ずつ対峙することになってしまっていた。
だがそれも、俺達の乱入でようやく均衡が崩れたようだ。
「柊木さん、スピーカーつけるよ」
言いながら、俺は避難者の元に向かう。
『避難誘導に来ました。皆さんこちらへどうぞ』
「なんだ!?」「ロボット?」などとざわめく避難者の中で「かっけー」という少年の声を耳にして、俺は内心ガッツポーズをする。
そうして、俺達は次々に避難者たちをスロープへと誘導した。
手の空いたコンカーが近くのコンカーのサポートに入りはじめると、拮抗していた戦況もコンカー達の優勢に変わってゆく。
モンスターは一体、また一体と確実に討伐されていった。
「はぁっ」と後ろで苦しげな息が吐かれる。
これを動かしているだけで彼女の巡力をゴリゴリ削ってるからな……。
俺は右脇に設置したスマホの時計をチラリと見る。
駆動時間はそろそろ10分を過ぎそうだ。ここまでだな。
俺は最後の避難者達がスロープを登り始めるのを横目に確認しながら、邪魔にならない場所にロボを移動させて足をコンパクトに折り畳み、コックピットの位置を下げて、柊木さんに声をかける。
「柊木さん、巡力止めていいよ。ありがとう」
「ひゃぃぃ……」
ほっとした柊木さんが左右のハンドルから手を離す。
思った以上にヘロヘロだな。実戦という緊張感もあったんだろうな。
「あと巡力はどのくらい残ってる?」
「えーっと………………、10分の1くらい……でしょうか」
返事にずいぶん時間がかかったな……。
「柊木さんが無理しないで出せる量は?」
「うぅ。残ってないですぅ……」
「わかった、ありがとう」
「ごめんなさい……」
「柊木さんが謝るとこじゃないって。俺こそたくさん使わせちゃってごめん」
「そんなことないですっ、前の時よりずっと楽でしたっ」
「それはよかった」
俺が肩越しに笑うと、柊木さんもふにゃっと安心したように笑った。
コンカー達の数人が、書架が倒れて散乱した1階を少し片付けて、救護スペースを再建しようとしている。
その近くで床に座る3人のコンカーと、それの手当てをしている医療班の人達。
それを眺めつつ側に立つ傷だらけのコンカーは、順番待ちか。さっき俺達が助けた人だな。
動けるコンカー達のほとんどは外に出て、防衛ラインを作り直している。
上から見た時に外で倒れていたコンカー達は大丈夫だったんだろうか。
コックピットカバーの内側に取り付けた、元々車椅子のハンドリムだったハンドルを、俺は腕を伸ばして回した。
キィ、と小さな音を立てて、色付きのガラス部分が下から開く。
完全密閉にしてしまったからな。少し空気を入れ替えておこう。
「それ、手動なんですね」
「柊木さんに何かあった時、開け閉めできないと困るからね」
そっかぁ、みたいな顔で俺を見ている柊木さんに「ちょっと重いけど、こっち向きに回せば開くって覚えといて」と説明する。
しっかり強化した分厚いガラスはずっしりと重いが、普段から車椅子を漕いでいる俺も、腕力ならそれなりにある。
グイグイ回して五センチほど開けたところで、不意に強い巡力の光がそばに来た。
黒髪をオールバックにした体格の良い男性の腕には腕章が三本巻かれている。
エントランスで説明していた人より腕章が多いって事は、この人が今回の攻略隊の責任者か?
一瞬で近くに来たって事は、この人もボスみたいな身体能力強化の人なんだろうか。
「話は聞いたよ。協力ありがとう。君はどこの支局の所属かな?」
「ええと……」
と口を開きかけた柊木さんを手で制して、俺は尋ねる。
「それを答えて俺達が不利になる可能性はありませんか?」
男は「そうだね……」としばらく考えてから「今後の状況次第ってところかな」と答えた。
なるほど?
この人が良い人かはまだ分からないが、そこまで悪い人ではないということだけは、分かった。
「では、この件は今後の状況次第でお返事させてください」と俺は返事をする。
男は一瞬目を丸くしてから声を上げて笑った。
「ハッハッハ。いや、最近の若い子はしっかりしてるなぁ」
「褒められちゃいました」と柊木さんが嬉しそうに呟く。
いや今のは違うと思うぞ。




