第24話 コンカー見習い
図書館の1階は、既にモンスターの侵入を許していて、あちこちでコンカー達が逃げ遅れた人達を庇うようにして戦っていた。
コンカー達は不意に現れたロボットにそれぞれ視線を投げたが、ロボットの外装にどデカく書いた「コンカー見習い」の文字を見てひとまず敵ではないと判断してくれたようだ。
若干見た目が間抜けになってしまうが、書いておいてよかった。
……しかし、この状況は妙だな。
「どうしてでしょうか……」
柊木さんも同じことを思ったらしい。
一般人よりコンカーが前にいるなら、モンスターは巡力の強い高いコンカーを狙うはずだ。
一般人には見向きもしないはずなのに、どうしてコンカー達は一般人を背に庇うようにして戦っているんだ……?
モンスターは肌の色こそ緑色だが、人に近い姿をしていた。簡素ではあるが、服のようなものを身に付け、爪や牙ではなく棍棒のような鈍器を振り回しているところを見るに、今までのモンスターよりも知能は相当高そうだ。
コンカーの渾身の一撃に弾き飛ばされたモンスターが、倒れた書架から散らばる本を数冊拾い上げる。
何をする気だ?
モンスターがまとめて数冊の本を投げ付ける。
投げた先は意外にもコンカーではなく、その後ろの一般人達だ。
迫る恐怖に次々と悲鳴が上がる。
「くそっ」
コンカーが本の軌道上へと身を投げた。
ただの本でもモンスターの腕力にかかれば一般人には十分な凶器だ。
バシバシっと音を立てて本がコンカーに激突する。
次の瞬間、モンスターはコンカーに殴りかかる……はずだったのだろう。
俺達が間に入らなければ。
コンカーめがけて駆け出したモンスターは、振り下ろされたロボのアームにガツンと激突してひっくり返った。
おお、ちゃんとロボ本体には衝撃の反動が来ないように出来てるな。
俺は撃吸収機構の大成功に思わず感動する。
「ロボット……?」「ロボだ……」「なんで図書館にロボ……」と避難者の皆さんがざわめきだした。
『ま、まだ見習いですが、避難誘導を手伝わせてください』
柊木さんの言葉は、完全密封のコックピットからエレベーターの緊急時通話用インターホンを通じて発されている。
俺が柊木さんに言ってほしいと思う言葉は、柊木さんの前に設置されたスマホに表示される仕組みだ。
ほわっとした女の子の声に、ロボへの警戒もさらに緩んだように見える。
俺が喋らなくて正解だったな。
「あのスロープから上階へ頼む!」
答えたコンカーは、すぐさまモンスターへと駆け出した。
この機に片をつけるつもりのようだ。
得体の知れないだろう俺達に対しての素早い判断に感謝しつつ、俺達は5人の避難者を保護してスロープまで連れて行く。
スロープの前にいた3人のコンカーも、ロボの姿に多少の驚きを見せつつも「ありがとう」「助かる」と言って、避難者達を上階へと向かわせてくれた。
今は、このスロープ前が最終防衛ラインなんだな。
ここにいるコンカー達は今ここを離れるわけにいかないんだろう。
「えへへ、お礼を言われちゃいましたね」
嬉しそうな柊木さんの声。
ちなみに、外部スピーカーへのオンオフは俺が切り替えている。
「次はどこに……」と相談しようとした俺の言葉に被せて柊木さんが答えた。
「薙乃さんにお任せします。相談してたら間に合いませんから」
確かに、それもそうだな。
「わかった」
答えてから、じんと胸が熱くなる。
コンカー見習いである柊木さんの名で動いている以上、俺の判断も俺の行動も、柊木さんの責任になってしまうのに。
それでも俺に任せると言ってくれた柊木さんの信頼に、俺は絶対応えたい。
俺はアームを畳んでコックピット部と一緒に回転させる。
足元はそのままに方向を転換すると、目星をつけていたコンカーの元へとロボを進める。
今回のロボにはクッションの効いた関節がついた細めの足が5本ある。
こんな風に書架や本が散乱した場所も難なく歩けて、簡単には倒れない仕様だ。
「次はあそこに行こう」
どうもあのコンカーは防戦一方のようだ。
おそらくあの人は攻撃系のコンカーじゃないんだろう。
近づくにつれ、コンカーが傷だらけなのが分かった。
相手のモンスターは弓のようなものを使っている。
このモンスター達はこんな飛び道具まで使えるのか。
ハッとモンスターがこちらに気づいた。
「柊木さん!」
「はいっ」
ロボを包む巡力がブワッと上がる。
多い多い。もうちょっと少なく……と思った時には柊木さんも気づいたのか出力が落ち着いた。
「うん、いい感じだよ!」
「ひゃいぃ」
モンスターがこちらに矢を放つ。
向かう矢を、ロボのアームが難なくなぎ払う。
俺は反対のアームをぐっと引いて、思い切り突き出した。




